2018-01-21

文在寅の正体〜「親北・反日」とレッテルを貼って片付けるな!(ロー・ダニエル) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)



文在寅の正体〜「親北・反日」とレッテルを貼って片付けるな!(ロー・ダニエル) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

文在寅の正体〜「親北・反日」とレッテルを貼って片付けるな!

その人間性と世界観を知る





ロー・ダニエル


アジア政治経済研究者

Asia Risk Monitor代表


プロフィール












女性大統領の弾劾という未曽有の事件、そしてその人物が監獄の中で裁判を受ける最中に新しい政権が誕生するというドラマが韓国で繰り広げられている。その主役は新大統領の文在寅(ムン・ジェイン)である。


5000万の人口規模を持ち、世界有数の経済国になった韓国の最高指導者となった文在寅であるが、その人格や思想などについては、ほとんど知られていない。


盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の秘書室長というのが彼の政治経歴のメインで、国会議員としては、たった1期4年を務めたに過ぎない。政治の世界で過ごした年月は長いが、政治家としては「新人」といわざるを得ない。


あえていえば、政界での業績をもって最高指導者になったというより、現在、韓国社会を揺り動かしている「渦巻き政治」が産んだ風雲児といってよい。


そこで、明らかになっている情報や、筆者とは同世代で北朝鮮からの避難民の息子という共通する背景から、文在寅新大統領の人格や性向を推論してみる。
従来の政治を「超越する」ロマンティズム


文在寅の自叙伝や評伝を読んだ後にまず浮かぶ印象は、彼がロマンティストであるということだ。基本的に、文系の世界で人生を開拓してきた彼のキャリアに大きな影響を及ぼした経験が2つある。


1つは、韓国南部の名門である慶南高校で4回も停学処分を受けたことである。その原因は大体、飲酒や喫煙であった。彼は、「成績は優等生だったが問題児に囲まれて」過ごした高校時代を、ある種の英雄談のように語っている。


もう1つは、法曹人としての彼の経歴を左右した出来事である。韓国で国家司法試験に合格することは人文社会系の人間にとって、出世の登竜門である。さらに、その合格者が受ける司法研修をトップクラスの成績で終えることは、法曹界のスターとして生き残れることを意味する。


彼は1980年、司法試験に合格、82年に司法研修院をトップの成績で終えたが、「当然の」コースである判事任用を拒否された。大学時代に反政府デモを主導した前歴のだめたった。そもそも法曹人を目指す人間が反政府運動を主導するという事自体が、当時の常識では、まるでドン・キホーテなのである。


判事も検事もなれなかった文には、弁護士になる道しか残っていなかった。なのに、その弁護士も一番きつくて「金にならない」、人権弁護士の道を選んだ。盧武鉉と一緒に人権弁護士の道を歩み、盧が大統領になって秘書官として政権に加わった文在寅の人生を貫くキーワードは「正義」だった。


正義の追求を人生の中心軸として置くことができる原動力は、利益の計算を超えて何らかの価値を求めるロマンである。いい換えれば彼の人生観の核心は「超越主義的」(transcendental)である。
すでに始まっている「超越」政策


この性情を非現実的なものと誤解してはいけない。盧が大統領になって大きな役割を提案したが、文は、「私には参謀役がふさわしい」といって、出世を拒む極めて現実的な姿勢を見せた。


盧は文の、こうした人柄に魅了され、自己紹介で「私は文在寅の友です」とまでいったのである。2人ともロマン主義者だったが、盧は前に立つボス、文は後ろに下がって目標を追求する執行者という対照を見せていた。


この「超越主義的ロマン」は、文の大統領就任後、真っ先行われた人事で表現された。大統領府の中で国家全体の司政秩序をモニターする民政首席秘書官に曺国(チョ・クク)という学者を任命した。このポストには伝統的に検事が起用されていたが、文は大統領の真っ先の措置でその伝統を破った。


曺氏は、刑法を専攻した学者としてソウル大学で教えながら、「参与連帯」という左派系の市民団体に長らく関わり、進歩的市民社会論者として文の大統領選挙を支えた。そして、大統領民政首席秘書官として掲げた政策が、検察改革、朴元大統領の国政壟断問題追及とセウォル号調査の再調査である。この政策方針の是非はこの記事のテーマではない。


だが、この方針は、文政権が通常の政治メカニズムを「超越」するロマンチックな傾向を予告している。


NEXT ▶︎ 正義だが融通は利かない

実利より大義名分と理屈を優先


高校の時、友たちと一緒に酒を飲んで摘発された際、自分が主導したといい、停学処分を受けたこと、慶熙大学に入学してみると、その大学で反政府デモが起こらないので自分が率先したこと、それが問題となりのちに「集会及び示威に関する法律」違反で有罪判決を受けたこと、そのため、夢にみた判事になれなくて人権弁護士になったこと、などが総体的に語るものは何か。


私はそこに倫理的優越感の存在を感じ取る。それが文氏を青年時代から数十年を引っ張ってきた精神的動力だろう。


司法研修院を優秀な成績で終えた文在寅が、無名の人権弁護士、盧武鉉と組んで数多くの「時局事件」を担当したこと、盧が大統領になった後にも人権弁護士の仕事を続け、悔しい思いをした人々のためにわずかな費用で弁護を続けたことは、倫理的優越感の表出だろう。


自らを他人より倫理的に優れていると信じる文は、人間関係において信義を重視し、約束を守る。仁義を尊重し、それをもって仲間から倫理的尊敬を求める人なら、他人と約束したこと、仲間たちの決めたことを変えないし曲げないので「原則主義者」の道を歩むこととなる。


国内政治のみならず外交においても、このような姿勢は大きな影響を及ぼすことになる。先に述べた超越主義と倫理的優越感が結合した結果、文の政策や行動は、実利より大義名分と理屈を重んじる可能性が高い。
「親北」「赤」のレッテル貼りは見損じを起こす


この性情と関連して誤解を払拭する必要がある。目下、韓国では以前、文が「共産主義者」呼ばわりされたことで裁判が行われている。今回の大統領選挙でも保守系の候補者たちは、リードしていた文を「赤」と色づけて得点を稼ごうとした。


しかし、文在寅を「赤い」共産主義者とか社会主義者と片付けることには無理がある。


まず、本人が否定している。文が代表する無数の利益集団の価値志向が、おおむねリベラルないし社会主義であることは間違いない。だが、文本人は、「選良のリベラルと既得権を守る腐った左派」を区別しようとする。


「運動圏のエリート主義と既得権カルテル」を非難する文の価値観は、大統領としての人事に現れている。国務総理に指名した李洛淵 (イ・ナグヨン)は、リベラル系の政治家になる前に21年間保守系の大手日刊紙『東亜日報』に勤めていた。


むしろ、文の批判を受ける左派の人々は、彼の融通がきかない姿勢や態度を嫌っている。文を「反米、反日、親中、親北」と性格づけることは軽率な態度である。政治家文在寅を嫌う人々にとって、そうした片付け方は満足感を感じるかもしれないが、政策の読みと予測において誤算を犯すこととなろう。

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李承晩・朴正煕時代の清算という「常識」



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日本との諸協定には見直し要求か


文氏の「常識の追求」は外交にも影響を及ぼすだろう。


就任直後に日本の安倍晋三首相と行った電話会談で、2015年に朴恵槿政権と結んだ慰安婦に関する日韓合意を「受容することができない」と宣言したことはこうした文脈からである。「不可逆的」という文言が入っている合意を「罪悪」と呼んだ文政権は、その合意の再交渉を要求することになる。


だが、こうした姿勢は単なる「反日」とは片付けられない。


現下の政策案件の以外に文氏が日本について言及したほぼ唯一の事例は、彼が中学生の時に結ばれた1965年の日韓正常化合意を彼の父親が「悪である」といったということだ。この影響で、文氏は、高校2年生の時、李承晩大統領の「3選改憲」の反対デモに参加したという。


もう1つあげれば、2004年に制定された「親日反民族行為真相究明に関する特別法」を盧武鉉政権の大きな功績としてあげることだ。


なお、李明博政権について非常に厳しい評価を持つ文氏は、その政権で結ばれた包括的軍事情報保護協定(GSOMIA)について、日韓の間の軍事情報の共有が日本に有利な形であるという認識をもっている。だから、GSOMIAの再交渉も卓上に挙げられるだろう。


中国の古典『三国誌』を複数のバージョンですべて読んだという文在寅は、中国について突出な発言をしたことがない。だが、中国・ロシアと協力し、「一帯一路」システムへの編入を構想している可能性が高い。


文氏には、韓国の運命を左右するのは、米国ではなく中国であるという認識が底辺にある。ならば、彼の任期の中で、北朝鮮とロシアと協力し、中国主導のユーラシア構想への参加することがありうる。
衝突の予感


米国について、文氏は、自分の家族を北朝鮮の興南から救った米国人への感謝を機会があるたびに述べている。また、特戦司令部の優秀な兵士として訓練を成し遂げた彼は米国の安保・防衛システムを理解しているはずである。だから、政治家として、韓米同盟の重要性を否定したことはない。


だが、先に述べた「常識」という観点から韓国の米国への従属に抵抗があり、韓米同盟の互恵性について疑問をもっているだろう。


北朝鮮について、自身が親北主義者ではなく、「親同胞主義者」であると、文氏は述べる。だから、大統領選挙の候補者論争で、北朝鮮を主敵と定義する保守路線に同調しなかった。対北においては、文氏が尊敬する金大中・盧武鉉ラインの融和政策に転じることは必至である。


このように、自らの「常識」に合致する国内統治と外交に文政権がこだわることになると、国内での意見や価値体系の衝突、そして他国のさまざまな「常識」との不整合が心配になる。世の中には無数のバージョンの「常識体系」が存在するからだ





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