感想・レビュー
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うううむ 題材も珍しいし、世の中の動きも感じるし、かといって登場人物の心理も自分には感じられた 喜怒哀楽が入り混じって、社会や歴史は形作られている これ名作なんじゃないのかなー
私たちは無数の選択肢の中で生きている。彼ら農民たちはブラジルへの片道切符を選択しただろうか。そして日本を離れるために乗ったブラジル行きの船でも、ことごとく格差社会。金や地位のないものには選択の自由が少ない。彼らは故郷を捨てる辛い境遇におかれながらも、日本では当然といえる水準、常識、ルールから解放され、幸せも感じている。 この頃の日本経済や世界について調べたくなった。
「氓」とは流浪する民を意味するそうだ。1930年代、食えない貧困にあえぐ農民たちがブラジルへ移住する悲惨な実態を深い哀しさのなかに描いた小説だった。第一回芥川賞受賞作品である。
私の貧相な語彙力では感想を表せない、漂う哀愁。祖国を離れブラジルに渡った私達の先祖は幸せになっただろうか。この後、大戦を経て経済大国になった日本に住む私達は幸せなのだろうか。彼らが牧歌的な生活を営めたわけではないだろうが、経済一辺倒の価値観に侵されがちな私達より幸せになったのではないだろうかと思うのは無い物ねだりだろうか。
知人から、この本の存在を知りました。過去のことを知るのも必要なことと思い読んでみました。本の中の登場人物、こういう人たちは、今はもういないだろうなと思いました。ブラジル移住された人たちの物語で、暗いのかなという思いでしたが、前向きでモノは考えようだなと思います。
第一回芥川賞受賞作。受賞したのは第1部蒼氓。第1部は1930年ブラジル移住希望者が神戸の移住収容所に滞在した8日間の出来事を描写。著者自身1930年に移民の監督者としてブラジルに渡り 数ヶ月後に帰国。
1部では全てを擲ってブラジルへの移住にしか夢を見出せない人々の姿がきめ細やかに書かれている。
第2部は移住船での45日間の船中生活。3等室に約1000人の人間が押し込まれ 明日への不安を押し隠し 希望に縋り付こうとする人々。
第3部は ブラジルに到着し 入植後の数日間を描いている。久し振りに日本文学を堪能した。
昭和26年12月28日 発行 昭和42年2月20日 23刷改版 昭和63年3月30日 63刷 第一部 蒼氓 第二部 南海航路 第三部 声無き民 解説、山本健吉 カバー、横山操 発行者、佐藤亮一 発行所、株式会社新潮社 印刷、株式会社金羊社 製本、憲専堂製本株式会社 カバー印刷、錦明印刷 昭和10年4月同人雑誌『星座』にて第一部発表 同年第一回芥川賞受賞
何度目の再読かわからないが東北弁に慣れておこうと山形旅行のお供に。行きの新幹線で移民たちが神戸の居留地で過ごす第一部を読む。以前父に朗読してもらったら臨場感があり面白かった。当時の農民は実に貧しかったんだと。山形で親戚たちと別れを惜しんだあと、帰りに船での道中を、まるで自分が新幹線ではなく船に乗っているかのような気持ちで読んだ。あれ、私はどこに向かっているのかな?そして伊豆での夕方、ブラジルに到着した場面を読む。外では夕方の色のなかで虫が鳴いている。鹿の声が聞こえる。いい旅で、いい読書だったな。
1935年第一回芥川賞受賞作のタイトルは意外にもあまり世に知れ渡っていない。聞けば、他の候補であった太宰治のデカダン文学や高見順の転校文学を抑えての受賞だったとか。そんな栄えある作品のテーマは何と「移民」。大正末期の景況により居場所を絶たれた人々が南米に駆り出される話。意図して南米へ向かう者、向かわざるを得なくなった者、移民という社会の陰りを人間模様に着目して堂々と描かれている。国勢の道具として捉えがちな移民について、その当事者が抱えていた痛みや希望について考えたくなる小説だった。
第一回芥川賞受賞作ということで読んでみました。『氓』とは、他国から流れてきた民。移住民のことだそうです。日本から遠く離れたブラジルへ移民として旅立って行く日本人の姿を描いた作品です。渡航前、渡航中、渡航後の三部作で、主人公を特に定めず、様々な人にスポットを当てています。夢と希望と一抹の不安を抱いて日本を後にする移民達。もしも行き着く先が楽園だとしても、私は日本人として日本で生涯を終えたいと思いました。
夏という女性は現代劇ではもう登場しない人物造形だなあ。当時としては、こういう人も珍しくなかったんだろうか。(地方ではまだ夜這いとかあったのかな) ブラジル移民も時代によって状況が違ったようだけれど、「昔ならいざしらず、これからは食っていくためだけのつもりでなくては駄目ですよ…」「そうだ、成功しようと思って来ると、ブラジルは地獄だ」と先行する移民の人が語る時代。まあ、このあと本土は太平洋戦争で地獄を見るわけだけれども。 神戸での出航準備、アフリカまわりの船旅、入植の初日と細部が描かれていて興味深い。
第1部だけ読んで続きがあることを知って読了。渡航船での45日を書いた第2部、入殖後の数日間を書いた第3部。話全体に悲壮な雰囲気が漂っている。故郷を捨てる覚悟でブラジルに希望を抱きすぎている移民の純朴さがせつない。最後はなんだか希望がみえてきていい終わり方だったのでよかった。移民たちの感情の移り変わりがうまく書き出されている。夏の生き様に当時の貧農層の暮らしを見た気がした。
菊池寛が「芥川賞」と「直木賞」を創設したのは昭和10年のこと。芥川龍之介、直木三十五の相次ぐ死を嘆いた菊池寛は「文芸春秋」に彼らの名を記念して「芥川賞・直木賞宣言」を掲げたのです。その第1回(上半期)芥川賞を与えられたのは石川達三の『蒼氓』(そうぼう)でした。『蒼氓』が芥川賞に選ばれた背景には当時のプロレタリア文学崩壊と私小説の否定により純粋小説(文芸復興)への方向転換があったとされます。物語は1930年(昭和5年)の神戸。ブラジルへの移民を希望する人たちが集まった「国立海外移民収容所」が舞台。。
☆☆☆☆ 第1回芥川賞ということで構えて読み始めた。なかなかに骨太な文章な割には読みやすく情景も浮かんできた。お夏の線の細さが気に入らなかったが、移民としてブラジルの大地に根付く覚悟を決め、姑とともに夫や弟たちを農園に見送るラストシーンでは、生きる強さが感じられて良かった。
希望を失ってからこそ生まれる、人間の強さ。淡い希望。今はそれし書けません。まだ頭の中で処理中。面白い本だし、余白が多く考える事が多い本だったことは事実。純文学には縁が無いと思っていたけど、案外読めた。
色々な人物や群集の変化が書いてあるのですが、その中でも特に”お夏”の表には出てこないが揺れ動く心情と、”門馬家老婆”の頑なさの対比が興味深い内容でした。 道が絞れた実感を持った後の融和には、グッと来る物があります。 余談として神戸を窓口としてブラジル移民がなされていた事を本書で始めて知りまして、お祭りでのサンバストリートや有名なコーヒーメーカーが在る成行に今更ながら納得しました。
昭和の初め国策としてブラジル移民という、希望とか決意とかとは無関係に日本から排除された人々の、移民船に乗る前後そして入植先での日常を、美しく端正な文章で、怒りや悲しみなどの情緒を抑えた静かな文章が綴られる。大きな絶望とほんの少しの希望を捨て切れない人々の微妙な考えの変化、不安に怯えた毎日からとにかく生きていこうと漠然とした決意が淡々と書かれている。本書は敗戦後、焼け跡からの復興にやっと明かりが見え始めた時期に出版された。作者の伝えたい思いが重なり確信があったのでは、人々の生きる姿に未来が見える。
ブラジル移民政策=棄民政策を描いた、第一回芥川賞受賞作品を含めた連作中編集。これといった主人公は登場しない。全ての人が主人公と言えるだろう。神戸の移民収容所から始まり、ブラジルで各々に与えられた耕地に着くまで、様々な出来事が起きる。郷里で農家を続けても暮らしていけず、田畑、家財道具を全て処分した上での移民である。移民先での希望を抱いて乗船したはいいが、次第に甘くはないことが分かってくる様子は何とも言えず暗鬱になる。それを振り払うかのようにラストは明るく描かれているが、却って読み手には辛い。
第1回芥川賞(1935年度上半期)受賞作。タイトルの「蒼氓」は人民といった意味だが、この作品には、これという特定の主人公は存在しない。しいて言うならば、夏と孫市の姉弟だろうが、それとても群衆の中の一員に過ぎない。物語は900人余のブラジル移民団の居留地となっていた神戸を舞台に展開し、出発までを描く。現在、これを読む我々は、彼らのその後を知っているのだが、小説はライブな時間の中で語られていた。人々の運命を見据える作家の卓見というべきだろう。未知の地への不安と希望、哀しみや喜びが混沌とした感情の表出は巧みだ。
第一回芥川賞受賞作にふさわしくテーマがとても重く、スケールがでかい。太宰の『逆光』など問題にならない。 それに橋田先生は『ハルとナツ』を書くのに相当本書を読み込んだようで「この豆がうまいと思うようになるまではブラジル人じゃない」と言うせりふまでぱくっている。 そしてまた、随所に著者のわざとセンスが光る。昭和初期の作品とは思えない。
第一回芥川賞作品。もしかしたら再読。でも全く覚えてないから初めてかも。それにしても、辛いというかなんというか。この時代のブラジル移民がどんな思いで日本を離れたかが伺い知れます。日本ではもう食べられなくなった人がほとんどなんだろうけど、孫市みたいに軍隊から逃れるための移民も中にはいたんでしょうね。自分の家族を犠牲にして大それた移民なんかになってしまって、一生を棒にふってしまう。蒼氓って人民って意味らしいけど、ブラジル移民のあり方から日本人を再考できる作品ですね。
お夏に圧倒的な存在感を感じる。何故お夏は堀川さんに求婚されたのを弟に伝えなかったのだろう。堀川さんにしたためた手紙を投函できずに海に捨て出港のとき船室でさめざめ泣いていたのが切ない。でもお夏は勝治の嫁になってブラジルで生き抜くことを決意する。甘い幻想でブラジルに移民を送り込んだ無責任な日本の政府。王道楽土のコピーで満州に人々を駆り立てたのと同じではないか
【芥川賞】第一回。ブラジル移民の日本から出港するまでの話。国立海外移民収容所という事前検査と待ち合わせをする場所。それぞれが事情を持った人間の集まり。芥川賞が時代を映し出す鏡だという性格を濃厚にした。太宰治の逆行が落ち、予選で瀧井孝作が「道化の華」を落としたという。文学賞の難しさの始まり。
【芥川賞・直木賞作品を読む】第一回芥川賞。蒼氓は、諦めに包まれながらも一縷の望みをもち、南海航路にて万里の波涛を超えて苦難の道を歩みつつ ひと時の安らぎを得る。そして、声無き民は、土に生きて土に還る。 我が国の棄民政策に翻弄される、名も無き群像。南海航路という産道を通って、伯剌西爾の地に逞しさをもって新生する、希望の物語として読みたい。
冒頭から、人々の抱く希望は薄く淡い存在だとわかる。物事をまっすぐにとらえ、書くと言うような石川氏の文が印象的だった。最後、人々のそれでも希望があると進むしかない姿は、悲しくもありひたむきさだ、と感じた。
★★★★★第1回芥川賞受賞作品。ブラジル移住にトライする移民候補者を登場人物に収容所でのあれこれを描く。文章としてはまさに近代文学調で、この時代までこんな古めかしい漢字や当て字のようなものが使われていたとは思えないが、芥川賞が純文学カテゴリを対象とした賞ということで本作品のような作品が選定されたのだと推測する。
第1回芥川賞受賞作品、だからというよりも、ブラジル移民に関する本を読み続けている中で出会った1冊。戦前移民の日本・移民船・ブラジル到着後の様子が描かれている。ブラジル到着前後の移民の姿を描いた本は多いが、移民船の中の様子がこんなに細かく描かれているのはめずらしく、非常に興味深かった。
哲也がいいって薦めてるから読んだけどさー。なんていうかこの頃のニホンブンガクって独特だよなぁ。狭さと向き合う姿勢が独特。そこが面白くもあり鼻につきもし。
学生時代に読んだ時は「歴史の一こま」としてさらっと読んだが、シルバー時期に読むと人間の感情的なうねりが面白い。芥川賞作品第一号というだけあって、内容、筆力ともに重厚。ブラジル移民がテーマだが、船戸氏の一連作品と読み比べても面白い。1930年代の暗い背景で、生きるだけで余計なことを一切排除して貫くエネルギーが猛烈。ちょうど、その時期の子供の方々が今の後期高齢者。話を聞く事が多い中で、この本が勉強になった。
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