2021-04-18

処理水放出に猛反発した文政権の事情 昨年から態度変化:朝日新聞デジタル

処理水放出に猛反発した文政権の事情 昨年から態度変化:朝日新聞デジタル


処理水放出に猛反発した文政権の事情 昨年から態度変化
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ソウル=鈴木拓也

2021年4月16日 

2021年4月14日、韓国大統領府で行われた信任状捧呈(ほうてい)式に出席し、文在寅大統領(右)に向き合う相星孝一・駐韓国大使=東亜日報提供

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 日本政府が東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針を決定したことをめぐり、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が「周辺国の安全と海洋環境に危険を招く」と猛反発している。その背景には、国内世論に敏感にならざるを得ない事情もあるようだ。

 「日本政府の不当な決定に強い遺憾の意を表する。絶対に許せない措置だ」。日本政府が処理水の海洋放出の方針を決定した13日午前。文政権は関係官庁の次官を集めた緊急会議を開催し、会議を主宰した国務調整室の具潤哲(クユンチョル)室長が強く批判した。韓国政府は決定前の前日に「深刻な憂慮」(外交省報道官)を示していたが、批判のトーンをさらに上げた。

 韓国政府関係者によると、会議の開催は13日朝に決まったという。国務調整室は、内政で大統領を支える政権ナンバー2の首相を補佐する行政機関。その組織を束ねる具氏は、政府内で対日強硬派として知られる。日本政府が2020年3月に新型コロナウイルスの感染対策として、韓国からの入国を大幅に制限する措置を発表した際、怒りをあらわにして対抗措置を主張したという。

 韓国外交省はこの日、崔鍾文(チェジョンムン)第2次官が相星孝一・駐韓国大使を同省に呼び出して抗議した。大使館のトップである大使を呼び出すのはまれで、強い抗議を意味する。韓国政府関係者によると、同省内には慎重な意見もあったが、大統領府の意向が強く働いたという。

 福島原発事故の影響をめぐる韓国世論の関心は高い。韓国政府は福島周辺8県の水産物すべてと、14県の農産物27品目の輸入禁止を続ける。

 日本外務省から指示を受けた在韓日本大使館は昨秋から館員総出で、韓国政府だけでなく国会議員や経済界、マスコミ関係者らに処理水の安全性を繰り返し説明してきた。韓国外交省だけでなく、大統領府にも理解が広がったとの感触を得ていた。

 韓国海洋水産省が昨年10月に作成した内部文書には、多核種除去設備(ALPS)で処理した処理済み汚染水を再びALPSで処理し、海水で薄めた処理水を海に放出するという日本の処分方法について、「IAEA(国際原子力機関)が科学的、技術的に妥当性があると評価している」と記載されている。今後の方針についても「日本側に透明な情報公開を要求し、IAEAなどとの協力を進める」としている。韓国周辺海域のモニタリング強化の必要性に言及する一方で、韓国政府として放出への危険性や懸念には触れていない。

 だが、日本政府の放出決定方針に、韓国メディアは強い関心を示した。専門家や反原発団体、環境保護団体の懸念や批判の声を大々的に報道。日本大使館前では抗議デモが続き、原発推進の保守系野党の幹部からも「海洋環境に深刻な悪影響が予想されるだけに、国際社会と深く話し合って決めるべきだった」と日本政府を批判するコメントが出された。

 文大統領はこうした韓国国内の雰囲気に連動するように反応した。14日に、国際海洋法裁判所に放出の差し止めを求める暫定措置(仮処分)を含む提訴を検討するよう事務方に指示。信任状捧呈(ほうてい)式のため大統領府を訪れた相星大使には「地理的に最も近く海を共有する韓国の憂慮はとても大きい」と伝えた。大統領府は韓国メディアの記者らに「信任状捧呈の際の発言としては、異例のことだ」と説明し、国民の思いに寄り添う大統領像を演出した。

 韓国では7日投開票のソウルと釜山の市長選で与党が惨敗したばかり。不動産高騰による格差拡大や、公社職員らの土地投機疑惑で文政権への風当たりが強まり、政権支持率は30%台前半に停滞している。

 文政権に政策を助言してきた専門家は、「文氏のレームダック(死に体)化が進めば、これまで以上に世論に敏感にならざるを得ない。支持が得られると思えば、対日関係で強硬な対応を取ることもあるだろう」とみる。(ソウル=鈴木拓也)

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