2021-10-02

[書評] 松野周治・徐勝・夏剛編著『東北アジア共同体への道ー現状と課題ー』

[書評] 松野周治・徐勝・夏剛編著『東北アジア共同体への道ー現状と課題ー』
おく だ さとる奥田 聡I出版の背景,構成いまだに東西冷戦の構図が世界で唯一残存する東北アジアは,他地域が競って国際地域経済圏形成に動くなかにあっても,そうした動きから長らく取り残されてきた。日本の大陸侵略の終焉とともに貿易,投資,人の移動などの地域内経済交流はむしろ他地域との間よりも不自由となったが,時間の経過とともに日韓,日中,韓中の順で経済交流が再開され,域内諸国の高度経済成長や中国の改革・開放もあいまって域内における経済交流は次第に盛んになっていった。それでも,東北アジア各国は地理的には近接していてもその経済発展のレベルや速度には大きな較差が依然として存在しているし,相互の信頼関係も十分とはいえないのが現状である。本書は,編者らが所属する立命館大学国際地域研究所が重点研究領域課題のひとつとして掲げる東北アジアにおける経済協力と平和構築に関するプロジェクト研究「東北アジア共同体の基礎条件に関する研究──朝鮮半島をめぐる日中韓朝ロ協力を中心に──」(2004~05年度,研究代表者:松野周治)の成果である。本書の多くの章は同プロジェクトが2004年度に開催した3つの国際シンポジウムおよびセミナーでの報告が基礎となっている。タイトルとなっている東北アジア共同体を論じる意義について本書は,「東アジア共同体」を長期安定的ならしめるためとしている。2005年12月の第1回東アジア首脳会議を契機に,ASEAN+3を中核とする「東アジア共同体」が脚光を浴びるに至った


が,ASEAN+3の枠組みによる経済統合のみが進展すると,その北辺に隣接する一部東北アジア諸国(北朝鮮,ロシア,モンゴルなど)との所得格差が拡大し,東アジア全体の社会安定を損ないかねないと説く。そうした事態を避けるためには東北アジアの発展を支援することが必要であるが,諸制約によって発展可能性が十分に現実化されていない東北アジアにおいては政府や社会の活動によって発展条件を整備することが肝要で,これが同地域における地域経済協力や共同体形成を論じる意義であるとしている。II構成と内容本書は第1部の経済協力(第1~5章)と第2部の安全保障と文化交流(第6~10章)の2部構成となっている。章立ては次のとおりである。序章東北アジア共同体の歴史的意義と課題第1章 中国東北地域と朝鮮半島の経済関係の現状と展望──中朝経済関係の課題──第2章 中朝国境貿易の現状及び国境地域の社会・経済に対する影響第3章 積極的に入ってゆく経済協力──南北朝鮮の経済協力を通じた北朝鮮の東北アジア経済協力への参加方案──第4章 中国の「経済成長方式転換」とソフトウエア・アウトソーシング──大連の役割──第5章 中国のエネルギー問題と東アジアの政治「正常化」──中国石油問題のジレンマと地域協力の必要性──第6章 東北アジア地域協力と中日韓関係第7章 「東北アジア共同体」結成の求心力と遠心力──「文化縁・文化溝・文化力」に即した考察──第8章 両岸関係に関するポスト国族主義的思考第9章 「韓流」と東北アジアの政治第10章韓中高句麗史認識論争の認識──東北アジア地域協力の条件を考える──あとがき松野周治・徐勝・夏剛編著『東北アジア共同体への道──現状と課題──』文真堂 2006年viii+249ページ書評78『アジア経済』XLVIII−8(2007.8


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序章では本書が書かれた背景や意義,展望などが扱われている。帝国主義体制を背景に日本の敗戦時まで続いた東北アジアの経済交流活発化の時代を同地域での経済圏形成の第一段階とし,現在の日韓中相互の貿易,投資を中心とする経済交流活発化をその第二段階と捉える。上述のように東北アジアの発展が東アジア共同体の長期安定化に資することを論じたのもこの章である。また,東北アジアの地域経済協力において,中朝ロ国境地帯の持つ特別の意義に触れる。同地帯の発展は経済発展メカニズムに参加できていない北朝鮮の経済改革と対外開放を促す可能性を秘めているからである。一方,敵対関係の解消すらできていない東北アジアでの共同体形成の道は茨の道でもある。それでも韓国の対北抱擁政策などの対北朝鮮緊張緩和策や中国東北地区に対する国家レベルの振興策(東北等老工業基地振興戦略)等前向きの努力が払われていることにも触れる。


第1章は独自開発に基づく国際協力を目指した北朝鮮の「経済特区」政策が結局は中国へのさらなる依存をもたらしていることを描く。まず,2003年以後本格的化した中国政府の東北地区経済活性化政策と,計画経済の指導制原則を堅持しながらも市場経済の効率性を一部取り込むことを意図して実施した02年7月の北朝鮮の経済改革(経済管理改善措置)を説明する。北朝鮮は中国が朝鮮半島および日本海への出口として重視する丹東~新義州および図們~羅先ルートに新義州特別行政区と羅先経済貿易地区を作ったが,いずれも不発に終わったことを示す。前者は霧散し,後者は中国・華僑系以外の投資実績が低調である。筆者は結局,北朝鮮が自主開発の原則を守ろうとするなら中朝国境地帯に跨る両国経済特区に日韓企業を誘致すべきとした。


第2章は,国境互市(交易拠点)貿易の活性化を通じた図們江多国自由経済地域の建設を主張している。まず,中朝貿易が2000年代に漸増に転じたことや国境貿易における延辺の台頭を紹介する。国境貿易の経済社会的な影響としては,中国の在庫のはけ口,北朝鮮の食糧・エネルギー等の不足緩和とこれに伴う国境情勢安定,北朝鮮の改革開放促進を挙げる。中朝貿易の今後については,量的拡大と商品構成の高度化,信用力ある北朝鮮の大型国境貿易会社の登場を展望した。


第3章は,北朝鮮経済の停滞が東北アジアの平和と繁栄を脅かすことを防ぐために周辺国,とりわけ韓国が積極的に北朝鮮に入ってゆく経済協力を展開すべし,とした。まず,最近の北朝鮮経済の物資不足の深刻さと,援助と豊作と退蔵資金の活用で辛うじて支えられている脆弱な成長構造を指摘する。苦境に陥った北朝鮮は外資導入が成長に必須とみるに至ったが,筆者は外資流入後,東欧の経験などから消極的改革が結局は市場と計画の並存を帰結し,ついにはルーマニア型崩壊や中国型の市場化改革など,多様な帰結をもたらすことを展望した。筆者はさらに,北朝鮮の経済体制変化を管理する重要性を説き,そのためには北朝鮮を外部へ引っ張り出す経済協力ではなく,その経済的苦境と体制維持への憂慮を踏まえつつ北朝鮮に「入っていく」経済協力を展開して経済成長をサポートすることが肝要であるとした。第4章は,知識経済化によって経済成長構造の転換を図る中国にとってソフトウェアのアウトソーシング受託がIT産業成長の隘路解消の上策と主張した。その目的のためには人材的観点から日韓両国からの受注が望める大連が重要な貢献をなし得ると考えた。第5章は,中国のエネルギー輸入の増大が展望されるなかで,東アジア政治の「正常化」が地域の経済・安保上の不安定化させることを指摘する。中国の高度成長は今後国際石油市場に数億トン単位の巨大な需要負荷を負わせ,非弾力的な商品特性は市場における争奪を現出せしめる。しかし,エネルギーは経済活動に不可欠であるがゆえにその争奪は関係者の生存問題に容易に転化する。東アジア各国では民族主義的な内向性を本質とする「正常化」が進行中で,事態はさらに混迷しかねない。問題解決には,地域でのエネルギー協力と中国の経済成長のソフトランディングが望まれる。中国が低成長に陥れば世界的不況を招来するが,過熱すればエネルギー問題の激化が懸念される。このため,包括的地域協力を通じて各国が共存可能となるような水準に中国の経済成長を誘導することが提唱されている



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第6章は,東北アジアでの地域協力を低調ならしめた日韓中関係は今や転換点に逢着したとする。日韓関係は歴史と領土をめぐる摩擦が絶えないが,両者は摩擦と協力を共存させる「摩擦の管理」に乗り出していることに注目する。日韓中関係においては,日本は従来中国には「韓国カード」を,韓国には「中国カード」を示して事態沈静化を図ったが,2005年に小泉前首相が右派の非難する村山談話を踏襲するなどの変化も指摘する。日韓中の協力は1999年のASEAN+3を契機にして始まったが,これは小が大を率いる例といえる。ただし,日中両国の確執が三者協力を阻害しており,韓国による調整に期待を寄せる。筆者は三者協力の基本条件はすでに整ったとみており,「開放・対等・協力・漸進」の原則の下,北朝鮮の核問題解決,安保面での信頼醸成,安保協力と経済協力を柔軟に組み合わせることを推奨する。第7章は,東北アジアにおける相互不信を解きほぐす文化の力「文温」に期待を寄せる。前半は域内での相互理解の困難さを論じる。隣人との断絶をもたらした平成日本の歴史,文学の素養劣化と国際的接触における不用意を嗤う。瑣末趣味と戦略不在の日本式と戦略好きな一方いい加減な大陸式,そして主我・直截の中国流と没我・婉曲の日本流,「水に流す」日本と「忘れない」中国...。これらの間の懸隔,齟齬は枚挙に暇がない。しかし,後半では文化を通じた域内共同体形成への楽観が述べられる。中国での山口百恵人気と域内各地での「韓流」,ソフトパワー(軟実力)を誇る日本製品は域内に浸透した文化力の例だ。文化は「文火」(とろ火)に通じ,その穏やかな熱「文温」が時間の「柔力」で蟠りを解いていくことに期待する。「柔力」とは柔らかい存在の水がその滴りによってやがては石や鉄をも貫く力を持つことを指す。第8章は,台湾独立に関して展望している。本章は台湾独立の動きを民族自決の要素に乏しい分離主義と規定する。今日,分離主義は領土と主権を守る国家の集合体である国際社会から忌み嫌われ,その目的を達するのは容易でない。台湾の場合,一方的独立宣言は破滅的結果をもたらし得る。それは,独立宣言が中国の出兵の大義名分を与え,その結果誘発される内戦が米中間紛争を経て第3次世界大戦に発展する恐れすらあるからである。中国としては台湾の政治的自主の地位を尊重し,台湾の国際社会復帰を支援するのが上策といえる。そうすれば台湾独立運動はそれ以上拡散し得ないからである。

第9章は,日本に上陸した韓流を切り口にして隣国への潜在的な差別意識や無理解を指摘する。韓国スターへの関心に弁解するケースや,それまでの差別意識に気づかされてそれに承認を与える言辞のあること,韓流を通じて柔らかなものにとって代わる前の韓国人に対するイメージである怒りっぽさの背景となった植民地支配に対する憤怒の看過を指摘する。さらに,2002年のワールドカップ共催や冬ソナブームを纏った日韓友好論に政治的欺瞞の臭いを嗅ぎ取り,韓流への関心によっても変わらぬ韓国の対日批判をみて心外さをもらす要人やマスコミの態度に,実は韓流で日本が変わるのではなく,韓国側が変わることが期待されていることを見抜く。第10章は,専ら日本に向いていた韓国の警戒感が中国にも向かう契機となった高句麗史認識論争を扱う。中国による一連の辺境民族研究は,「統一多民族国家」たる中国の性格付けを補強するためのものであり,領土や資源の保全,民族問題の沈静化などが動機である。近隣国の目には拡大を善とする帝国主義的発想が仄見える。しかし,中国は延辺朝鮮族自治州と韓国の急速な結びつきを不安視している。総じていえば,高句麗史研究の中国側の意図は,侵略的な膨張志向よりも現行の国境確定と領有権主張の根拠作りを目的とした現状維持的なものと考えるのが妥当と結論付けた。最後に,現代国家とは必ずしも重なり合わない前近代国家を現代国家の枠に代入することを戒めるだけで領土紛争はかなりの程度解決するとの展望を示す一方で,現存国家(例えば日本)との侵略・被侵略関係には謝罪と賠償を通じた過去の清算が必要との立場を示している。IIIメリット本書の最大のメリットは,北朝鮮の改革・開放が


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第6章は,東北アジアでの地域協力を低調ならしめた日韓中関係は今や転換点に逢着したとする。日韓関係は歴史と領土をめぐる摩擦が絶えないが,両者は摩擦と協力を共存させる「摩擦の管理」に乗り出していることに注目する。日韓中関係においては,日本は従来中国には「韓国カード」を,韓国には「中国カード」を示して事態沈静化を図ったが,2005年に小泉前首相が右派の非難する村山談話を踏襲するなどの変化も指摘する。日韓中の協力は1999年のASEAN+3を契機にして始まったが,これは小が大を率いる例といえる。ただし,日中両国の確執が三者協力を阻害しており,韓国による調整に期待を寄せる。筆者は三者協力の基本条件はすでに整ったとみており,「開放・対等・協力・漸進」の原則の下,北朝鮮の核問題解決,安保面での信頼醸成,安保協力と経済協力を柔軟に組み合わせることを推奨する。第7章は,東北アジアにおける相互不信を解きほぐす文化の力「文温」に期待を寄せる。前半は域内での相互理解の困難さを論じる。隣人との断絶をもたらした平成日本の歴史,文学の素養劣化と国際的接触における不用意を嗤う。瑣末趣味と戦略不在の日本式と戦略好きな一方いい加減な大陸式,そして主我・直截の中国流と没我・婉曲の日本流,「水に流す」日本と「忘れない」中国...。これらの間の懸隔,齟齬は枚挙に暇がない。しかし,後半では文化を通じた域内共同体形成への楽観が述べられる。中国での山口百恵人気と域内各地での「韓流」,ソフトパワー(軟実力)を誇る日本製品は域内に浸透した文化力の例だ。文化は「文火」(とろ火)に通じ,その穏やかな熱「文温」が時間の「柔力」で蟠りを解いていくことに期待する。「柔力」とは柔らかい存在の水がその滴りによってやがては石や鉄をも貫く力を持つことを指す。第8章は,台湾独立に関して展望している。本章は台湾独立の動きを民族自決の要素に乏しい分離主義と規定する。今日,分離主義は領土と主権を守る国家の集合体である国際社会から忌み嫌われ,その目的を達するのは容易でない。台湾の場合,一方的独立宣言は破滅的結果をもたらし得る。それは,独立宣言が中国の出兵の大義名分を与え,その結果誘発される内戦が米中間紛争を経て第3次世界大戦に発展する恐れすらあるからである。中国としては台湾の政治的自主の地位を尊重し,台湾の国際社会復帰を支援するのが上策といえる。そうすれば台湾独立運動はそれ以上拡散し得ないからである。

第9章は,日本に上陸した韓流を切り口にして隣国への潜在的な差別意識や無理解を指摘する。韓国スターへの関心に弁解するケースや,それまでの差別意識に気づかされてそれに承認を与える言辞のあること,韓流を通じて柔らかなものにとって代わる前の韓国人に対するイメージである怒りっぽさの背景となった植民地支配に対する憤怒の看過を指摘する。さらに,2002年のワールドカップ共催や冬ソナブームを纏った日韓友好論に政治的欺瞞の臭いを嗅ぎ取り,韓流への関心によっても変わらぬ韓国の対日批判をみて心外さをもらす要人やマスコミの態度に,実は韓流で日本が変わるのではなく,韓国側が変わることが期待されていることを見抜く。第10章は,専ら日本に向いていた韓国の警戒感が中国にも向かう契機となった高句麗史認識論争を扱う。中国による一連の辺境民族研究は,「統一多民族国家」たる中国の性格付けを補強するためのものであり,領土や資源の保全,民族問題の沈静化などが動機である。近隣国の目には拡大を善とする帝国主義的発想が仄見える。しかし,中国は延辺朝鮮族自治州と韓国の急速な結びつきを不安視している。総じていえば,高句麗史研究の中国側の意図は,侵略的な膨張志向よりも現行の国境確定と領有権主張の根拠作りを目的とした現状維持的なものと考えるのが妥当と結論付けた。最後に,現代国家とは必ずしも重なり合わない前近代国家を現代国家の枠に代入することを戒めるだけで領土紛争はかなりの程度解決するとの展望を示す一方で,現存国家(例えば日本)との侵略・被侵略関係には謝罪と賠償を通じた過去の清算が必要との立場を示している。IIIメリット本書の最大のメリットは,北朝鮮の改革・開放が



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進展し,また同国が国際社会へデビューした際に周辺諸国において起きるとみられる変化を推測する手がかりを与えていることであろう。北朝鮮が閉ざされているがゆえに,中朝ロ国境地帯は他国からのアクセスが困難な辺境地域として放置されてきた。北朝鮮に市場経済原則が行き渡ると同時に利益を求めての国際的人的移動が解禁された場合,近隣国には新たなビジネスチャンスが生まれる。それを極大化するためにはどうしたらよいか。本書の第1章および第2章から読み取れる処方は,周辺国から北朝鮮に通ずる輸送路の整備と食料・エネルギー供給の確保である。こうした前提条件の充足なしには潜在的な成長要因は開花しない。第2に,現在進行中の6カ国協議の進展が北朝鮮の経済体制,ひいてはその国家体制にどのような変化をもたらすのかについての予測を示したことも本書のメリットとして挙げられる。北朝鮮の核開発断念に伴ってマカオのバンコ・デルタ・アジアにある北朝鮮関連口座の凍結解除やエネルギー支援が2007年2月には決まっている。このところの北朝鮮と米国の接近ぶりは急速で,第3章で提唱される積極的に北朝鮮に入り込んで実施する経済協力が韓国のみならず米国によっても行われそうな形勢である。第3に,地域内に渦巻く相互不信が縷々指摘される一方でその解決に対する道筋も一部示されていることもメリットとして挙げられる。過去の戦争や植民地支配を背景とした差別や相互不信や国家分断は東北アジアを特徴付ける余り有難くないラベルともいえる。第9章は冬ソナブームの裏に隠された差別感情を暴いてみせたし,第7章の前半には文化面からみての相互理解の難しさが畳み掛けるように盛り込まれており,読む者の心を暗くさせるほどである。しかし,同章後半のとろ火の火種を絶やさずに守ることから生み出される「文温」の効用を説くくだりでは,一筋の光明を見出す思いがする。第6章は日韓中協力との関係において日本が「韓国カード」,「中国カード」を切って事態沈静化を図ってきたことに言及したが,これは自己の変化を怠り相手側の変化に期待する,いわば他者の発見のない自己中心的な態度への暗黙の批判であろう。しかしながら,民族主義的言動で多くの摩擦を引き起こした小泉前首相にも村山談話の継承という隠れた一面があることを第6章の筆者は見逃さなかった。また,小が大を率いる地域の特性を巧く指摘したことも興味深い。日本と中国の両国は面子をかけた意地の張り合いに陥りがちではあるが,ASEANや韓国などによる調整が意外な効用をもたらす可能性を示していることも興味深い点のひとつである。第4に,韓国内で台頭している中国脅威論の一部を構成する高句麗歴史認識については,中国の論点を韓国・北朝鮮の論点と対比して示したこともメリットとして挙げられよう。これまでのところ韓国や北朝鮮が感じる脅威の方ばかりが紹介される嫌いはあったが,本書の第10章では,韓国と朝鮮族の交流緊密化が中国を不安にさせている事実,そして高句麗のように過去に存在した前近代国家を押し立てて現代国家が争うことの愚を摘示したことは評価されよう。第5に,より広域の東アジア共同体の成功のためにはその北辺にある東北アジアの安定が重要であるとの見方が示されたことも評価される。東北アジアにおける所得格差が一部低所得国家,なかんずく北朝鮮発の不安定を招くことを恐れる見方は韓国の対北朝鮮抱擁政策と通ずるものがある。IVデメリット次に,本書が抱える問題点について若干の指摘を行っておこう。第1に,論点が拡散している感は否めない。国際的な共同プロジェクトの成果という本書の性格上,共同研究にありがちな論点拡散や細かな論点の不統一はある程度やむを得ないことは評者の職務上の経験からも認めざるを得ない。それでも,総論でのまとめが弱いこと,そして書名にもなった東北アジアにおける共同体形成の意義についてはもう少し記述を強めるなど可視的な対策を打ち出してもらえたらもう少し読みやすくなるのではないかと思われた。第2に,上のことと関連するが,各章を単独論文としてみた場合の効用に比して,通読した場合にみ



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[書評] 松野周治・徐勝・夏剛編著『東北アジア共
同体への道ー現状と課題ー』
著者
奥田 聰
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジア経済
48
8
ページ
78-82


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