2020-06-01

日本軍慰安婦は強姦犯罪を防いだのか

日本軍慰安婦は強姦犯罪を防いだのか
慰安婦をつくったから戦地での強姦事件を防ぐことが出来たと右翼政治家たちはいいます。
強姦を防ぐために慰安婦制度を作ったのはそのとおりですが、その制度が役立って強姦が減ったという資料は、どこにもありません。
むしろ、当時の日本軍史料は、慰安所をいくら作っても強姦が減らなかったことを示しています。
1.慰安所制度ができるまで
 昭和12年の日中戦争勃発当時、軍は強姦犯罪を気にしていなかった様子がうかがえます。
■「松井石根大将陣中日記」
 「一時我が将兵のより少数の掠奪行為(主として家具などあり)強姦などもありしごとく、多少はやむなき実情なり」
■『岡村寧次大将資料』(上)「第四編 武漢攻略前後」
「稲葉中将は云う。わが師団将兵は戦闘第一主義に徹し豪勇 絶倫 なるも掠奪 強姦 などの非行を軽視する」
 しかし戦いを進めるにつれて、分かってきたことがありました。
 中国人は貞操観念が極めて強いこと。
 中国人の間で強姦事件が少ないこと。
 婦人を強姦すると、日本軍に対する敵対心が一挙に高まること。
 兵士の強姦を野放しにしては、作戦の障害になると気づいたのです。
 そこで翌昭和13年にはじめて慰安所が設けられました。
 では、慰安所設置は強姦防止に効果があったのでしょうか。
2.慰安所制度の初期
 慰安所開設から2年、強姦は減ったでしょうか。
 史料を確かめましょう。
■ 『事変の経験に基づく無形戦力軍紀風紀関係資料(案)』昭和15年
(アジア歴史資料センター Ref.C11110759600)
 「抗命、辱職、逃亡、殺人、傷害、強姦等依然減少せず」
 強姦が減っていないと書いてあります。
■『支那事変ノ経験ヨリ観タル軍紀振作対策』昭和15年11月
 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C11110762000
 原文に適宜句読点を加え、カタカナを平仮名に直し、読み仮名を添えて転記します。
「事変勃発以来の実情に徴(ちょう)するに、赫々(かくかく)たる武勲の反面に、
 掠奪、 強姦、 放火、俘虜惨殺等、皇軍たるの本質に反する幾多の犯行を生じ、
 為に聖戦に対する 内外の嫌悪反感を招来 し、
 聖戦目的の達成を困難ならしめあるは遺憾とする所なり」
 あまりに強姦が多くて中国人民の反感を買い、「聖戦目的の達成を困難ならしめある」、すなわち戦争に勝つことさえ危うくなっていると告白しているのです。
2.慰安所制度中期
 1.で見たように、慰安所をつくっても強姦が多発していました。
 そこで、まだ足りない、もっと作れという声が大きくなりました。
 (が、慰安婦になりたい女性がそう都合良く現れるはずがない。募集の方法がだんだん手荒くなるのは、この時期です)
 その声に押されて慰安所をたくさん作りましたが、それで対策は功を奏したのでしょうか。
 どうもそうではなさそうで、業を煮やした軍隊司法当局は陸軍刑法に「強姦罪」を新設し、非親告罪にしました。
■『陸支密大日記 第9号』昭和17年
 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C04123725700
「戦地における強姦は軍紀を破壊し、軍の爾他の宣撫工作を一切無効ならしむ。
 又被害者において御難を恐れ告訴を躊躇する場合極めて多きをもって、非親告罪として処分するの要あり」
 被害者の告発を待たずに、憲兵が職権で取り締まるぞというのです。
 軍がどれほど強姦の多発に手を焼いていたのかが分かります。
 慰安所設置で強姦が減っていれば、こんな取締強化など必要ないはずです。
 慰安所をつくっても一向に強姦が減っていないことを、この史料は物語っています。
3.慰安所制度 後期 敗戦前
■『陸軍軍事警察月報』昭和20年
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A06030009400
 つぎは昭和20年の資料です。
 慰安所を作り、刑法を厳しくして、それでどうなったでしょうか。
 『陸軍軍事警察月報』は冒頭で「多発犯罪左の如く」と上げています。
 逃亡、掠奪、窃盗と並んで、やはり戦地強姦が上がっています。
 巻末にグラフがついていて、昭和18年、19年に較べると昭和20年の犯罪が群を抜いて多いことが分かります。 
 戦局の悪化と共に軍の規律が崩壊し、各種の犯罪が増加しているのです。
 強姦はグラフになっていませんが、他の犯罪と共に多発しているというのだから、むろん増えたに違いありません。
4.まとめ
 日本軍は戦場の強姦多発に悩まされ、沢山の慰安所を作りました。
 しかし作っても作っても強姦が減らないので、ずっと「慰安所が足りない」、「慰安所をつくれ」、「慰安婦を呼べ」と言い続けていました。
 それでも強姦事件は減るどころかますます増えていたのが実態です。
 慰安所は強姦防止に関して、何の効果も現さなかったのです。
 そもそも戦地強姦に限らず強姦(および性的犯罪)の多くは性欲からではなく支配欲から行われるのです。
 それは被害者学や、女性学、児童への性的虐待に関する研究では今や通説です。
 戦時において強姦が多発しやすいのも、相手を屈服させる、支配するという要請が強く働くなかで、性を通じて相手を支配しようとするからです。
 イラクのアブグレイブ刑務所では、女性米軍兵士が男性捕虜に対して性的虐待を行っていました。
 彼女たちは性欲に駆られて捕虜を性的虐待したのではありません。
 ただ辱めを与え、いたぶりたかったのです。
 戦場では、男も女も、支配欲の発露によって性的犯罪を犯すのです。

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