2021-03-27

田中均氏「北朝鮮問題に包括的戦略を」 - 田中均|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

田中均氏「北朝鮮問題に包括的戦略を」 - 田中均|論座 - 朝日新聞社の言論サイト: 田中均氏「北朝鮮問題に包括的戦略を」
「米朝膠着」で「日朝対話」に繫がる可能性が出てきた。「結果を作る外交」が必要だ

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

2019年05月24日
北朝鮮|拉致問題|日朝国交正常化交渉|日朝首脳会談|田中均
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拡大田中均・国際戦略研究所理事長
 安倍首相は「最大限の圧力」、「対話のための対話はしない」、「拉致問題の前進を前提にした対話」といった方針から「無条件で対話」へと方針を転換した。韓、米、中、露の首脳が既に金正恩委員長と直接会談を行っている以上、方針を転換せざるを得なかったのではないかと受け取られているが、これを国内的パフォーマンスに終わらせてはならない。

 北朝鮮問題は拉致・核・ミサイル、国交正常化問題など日本の外交・安全保障の核心的な課題があり、日本にとって好ましい解決に導くために良く練られた戦略が必要だ。言葉だけで重要性を語り、解決に向けては一向に前進していかないといったことではなく、結果を作る外交が展開されねばならない。

「米朝膠着」で「日朝対話」の可能性
 日本の戦略を考えるうえで、まず重要なのは、核問題を巡る米朝交渉の行方だ。

 2月のベトナムでの米朝首脳会談は米朝の意思疎通が明らかに不十分だった。北朝鮮が廃棄する寧辺の核施設はプルトニウムだけではなくウラン濃縮施設も含むことを明確にし、経済制裁緩和の範囲を絞り込むことで取りあえずの合意はできたはずだが、そうならなかった。

 おそらくトランプ大統領は当時の国内政治情勢、即ちコーエン元顧問弁護士が議会証言でトランプ大統領を激しく批判していたのを見て、中途半端な合意を作るより先送りすることが得策と判断したのだろう。

 金正恩委員長は年末まで米国の出方を待つと言っており、トランプ大統領も来年の大統領選挙に向けて実績を上げるという見地から北朝鮮問題を動かそうと考えるのだろう。現在は明らかに膠着状態であるが、今後6か月程度の間にブレークスルーを作ることが出来るのか。

 そのために必要であるのは、第一に実務的交渉ルートの確立だ。

 従来対米関係で主要な役割を果たしていた金英哲党副委員長が党統一戦線部長の職から離れたと伝えられており、対米交渉の実務的責任者が現段階では不明だ。北朝鮮はトランプ大統領と直接交渉するのが有利と考えているとみられるが、今後の交渉は相当複雑であり、実務的交渉が先行せざるを得ない。ただ、今のところ実務的ルートは繋がっておらず、米朝間では何事も起こっていないのではないかとみられている。


拡大夕食会で歓談するトランプ米大統領と金正恩氏ら=2019年2月27日、ハノイ、労働新聞ホームページから
 第二に交渉の中身だ。おそらく米国も一括的非核化で合意が達成できるとは考えておらず、ステップ・バイ・ステップで解決していっても良いと考えているはずだ。その場合、最初のステップは寧辺から始まるとしても、次のステップを明らかにし、最終的なステップに至る道筋を米朝間で合意できるかどうかだ。非核化のステップに合わせ平和体制構築のステップも合意されねばならないということだろう。

 米朝間では既に連絡事務所の開設は事実上合意されており、これが第一のステップの一部であり、経済制裁の部分的解除ないし南北経済協力の例外化等のメニューが検討されるのだろう。その先には終戦宣言、国交正常化、停戦合意の平和条約への転換といったステップが検討されるのだろう。

 これまでの経緯を見れば、このような非核化と平和体制構築に向けての道筋は容易ではないのは明らかだ。だとすれば北朝鮮は自己の立場への理解を得るため日本を含む周辺主要国との接触を行い自己に有利な環境を作りたいと考えるはずだ。すでに韓国、中国に加えロシアとはそのような接触を始めている。そういう意味で日朝対話は繋がる可能性がある。

 では日本は具体的にどのようなアプローチをとるべきか。首脳会談であれ実務的な交渉であれ、会談をすること自体が目的であってはならず、結果を作ることに繋がらなければならない。

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国交正常化につなげる包括的解決を外交目的に

拡大拉致問題の国民大集会で、あいさつする安倍晋三首相=2019年5月19日、東京都千代田区
 ここでしっかり理解しなければならない幾つかの点がある。
 第一に外交目的の再確認だ。日本の国益にとって拉致・核・ミサイル問題のいずれも重要であり、これらの問題を解決し、国交正常化につなげるという包括的解決こそが外交目的でなければならない。この点について国民の理解を得る努力をするべきだし、日朝対話のあらゆる局面で明確にしていかなければならない。

 国際社会では日本は拉致問題のみに関心があるととらえられている。以前はそうではなかった。1994年の第一次核危機に際しての合意は米朝による枠組み合意であったが、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)を中心としてこれを実施に移す仕組みを作るうえで日本の役割は大きかった。

 その後、核問題解決に向けて2003年から始まった日・米・中・ロ・韓国・北朝鮮の6者協議も日本が先導して構築された。拉致問題が重要なことは論を俟たないが、核・ミサイル問題の解決にも能動的に取り組まなければならない。

 第二に、拉致問題は残念ながら要求するだけでは解決に繋がらず、北朝鮮に解決の意思を持たせる状況を作らねばならない。このためには北朝鮮への経済協力が鍵となるが、核問題が現状のまま日本だけが経済協力に走る訳にはいかない。韓国も南北協力を促進したいと考えているが核問題が現状のままでは、経済協力は許されない。だからこそ、拉致・核・ミサイルの包括的解決と国交正常化の戦略を持つことこそが拉致問題解決の早道なのだ。

まずは「国交正常化交渉」の呼びかけを
 そのような認識を再確認したうえで、まず、日本はピョンヤン宣言に基づく「国交正常化交渉」の呼びかけを行うべきだ。

 国交正常化交渉は直ちに国交正常化を意味するものではなく、あらゆる懸案を話し合う場としての意味がある。そこでは拉致問題、正常化後の経済協力、核・ミサイルを含む安全保障課題が含まれるはずだ。そして拉致問題については

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