2024-08-09

坂元ひろ子さん | 『ジェンダー研究を継承する』アーカイブ特設サイト | ジェンダー社会科学研究センター

坂元ひろ子さん | 『ジェンダー研究を継承する』アーカイブ特設サイト | ジェンダー社会科学研究センター



坂元ひろ子 Hiroko SAKAMOTO
Profile


坂元ひろ子(さかもと・ひろこ)は1950年、大阪府生まれ。2023年没。
 1970年に一橋大学経済学部へ入学するが’72年に社会学部に転学部、’76年卒業。’74年より『禅学大辞典』編纂所に勤務し、『禅学大辞典』の完成後、’78年東京大学大学院人文科学研究科中国哲学修士課程へ入学。’81年同博士課程へ進学。在学中の’81〜’83年北京大学哲学系に中華人民共和国政府奨学金留学生、高級進修生(博士課程相当)として留学する。’86年同博士課程単位取得退学。’88年山口大学教養部助教授、’93年東京都立大学(現首都大学東京)人文学部中国文学科助教授を経て、’98年一橋大学社会学部教授、2000年同大学大学院社会学研究科教授。’14年同名誉教授。
 坂元は同研究科に2007年に設置されたジェンダー社会科学研究センター(CGraSS)の活動にも尽力し、’11〜’12年度には代表も務めた他、ジェンダー研究と社会科学・人文科学の接合を目指した多くの教育、研究を展開してきた。また、日本現代中国学会や中国社会文化学会では理事長も務め、ジェンダーをテーマとした企画を積極的に立ち上げることで男性中心の学界に新風を吹き込んだ。国外では’91〜’93年ハーバード大学フェアバンク中国研究センター客員研究員、’07〜’08年アムステルダム大学とライデン大学にまたがる国際アジア学研究所(International Institute for Asian Studies, 現在はライデン大学のみ)に客員研究員として在籍。
 坂元は男性研究者によって単性史として描かれてきた近現代中国思想文化史の分野に、ジェンダー、エスニシティ、階級・階層など多角的な視点で鋭く切り込む議論を提起してきた。また、図像資料も駆使しつつ、知の形成から排除されてきた中国女性の営みを浮かび上がらせ、その声をひろい上げてきた。

著書は共著、翻訳などを含め多数あるが、単著では『中国民族主義の神話――人種・身体・ジェンダー』(岩波書店、2004年)、『連鎖する中国近代の“知”』(研文出版、2009年)などがある。

(執筆担当:上村陽子)
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中国民族主義の神話

人種・身体・ジェンダー

進化論と優生思想,国民化とジェンダー….多様な問題群から読み解く,共時性としての中国近代.





著者 坂元 ひろ子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史

刊行日 2004/04/27
ISBN 9784000238236
Cコード 0022
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 282頁
在庫 品切れ

この本の内容
目次



序章 近代の旅路――1903年中国女性

第一章 中国民族主義の神話――進化論・人種観・博覧会事件
1 中国近代の民族主義をめぐって
2 華夷・人種の表象
3 「保国」「保種」と社会進化論
4 黄帝神話・黄種・黄禍論
5 大阪博覧会事件
6 章炳麟の対周縁少数民族観
7 進化論と民族主義の行方

第二章 恋愛神聖と優生思想
1 五四新文化ディスコース
2 中国における優生学の受容
3 人口論・産児制限・恋愛結婚と優生思想
4 社会変革・女性解放言説と優生思想――周作人・周建人を中心に
5 優生学論争――周建人・潘光旦
6 恋愛の行方・フェミニズムの困境

第三章 足のディスコース
1 身体の国民化
2 纏足の表象
3 国粋から「残廃」・国恥へ
4 「落伍の足」の苦悩
5 纏足の末路と「質」の再発見

第四章 民族学・多民族国家論――費孝通
1 多民族性
2 近代中国人類・民族学の成立
3 費孝通の思想形成
4 「マルクス主義」の困難
5 「多元一体」中華民族論

終章 近代から見える現在

 注
 参考文献
 あとがき
 人名索引


書評情報
UP 2007年1月号
史学雑誌 第115編第8号(2006年8月)
ジェンダー史学 2005年創刊号
歴史学研究 第803号(2005年7月)
思想 2005年4月号
中国研究月報 2005年3月号
週刊読書人 2004年7月16日号
東亜日報 2004年7月3日
日本経済新聞(朝刊) 2004年6月20日



著者略歴
社会進化論と優生思想,民族主義と人種主義,身体の国民化とジェンダー….近代世界が非対称的ながら等しく直面した問題群を,中国はどう経験し,自らの近代を彫琢していったのか.梁啓超・譚嗣同・章炳麟らの思想家,女性教育家,科学者,「纏足」廃止論者などのテキストを縦横に読み解き,中国の近代を広く共時性のなかから描きだす.


■著者からのメッセージ
 今世紀の中国が日本にとってもより大きな存在となるだろうという予測がたつ今なお、不変の「中華思想」という、むしろ日本側の固定観念によって中国は語られがちだ。それは、なにかしら異質な文化に遭遇すると、自文化を特権化するのと表裏するかたちで、いとも簡単に、理解不能な「他者」として特殊化することに通じている。その危険性は、異文化をもつものへの自らの無知を「野蛮」「ならず者」視に転化し、そうした国や民族に対する「民主化」や「解放」の名による武力侵略への批判力をもたない思潮に、アメリカを中心として、日本を含む世界のそこかしこが覆われているのを見ても明らかだろう。このような困境から脱するための思想的な試みにおいても、中国の近代を共時において理解しようとすることがそのよき練習問題となりうるのではないか。
 たとえば今世紀のアフガニスタンやイラクへの侵略戦争でも、戦果に「抑圧されたムスリム女性の解放」がしばしばあげられた。市民にとってはまずは生命と暮らしあっての「解放」であることをさしおいているところに問題があるのはいうまでもない。女性に宗教的理由をつけて課せられた不自由については、当の女性たちが主体となってあるべき解放をいずれ勝ちとるだろうとしても、その存在が国・民族の「野蛮」性の象徴とされ、「開化」の戦争の正当化に利用されている。この点が、少なくとも数百年は盛行した中国の纏足女性の近代における「解放」問題を連想させる。外からの纏足「解放」のプロセスは、「国恥」と目され、「落伍の足」と卑下した女性の肉体的精神的苦痛に満ちたものであった。
 短期的にみれば、「優勝劣敗」で野蛮が淘汰されるとする社会進化論を底流にもつ、西欧発のある種のグローバル化。それが近代の顔のひとつであるとして、内部矛盾を醸成した長い王朝時代の歴史性を背負う世紀後半以降の中国は、西欧と大規模な遭遇をし、端的には西欧とその後追いをはかった日本からの「開化」の名による侵略に苦しみ抗する一方、アジア近隣地域間における不均衡ながらも双行的な思想連鎖の一環節として、西欧の受容・消化もはかって近代を形成してきた。
 そこに時代の課題としてひときわ濃く浮かび上がったのは「保国」「保種」のための民族主義であった。それは華夷思想とは似て非なる近代人種概念の流布と重なり、日本ともども黄白人種史観を含んだし、社会進化論さらに身体を含めた女性の国民化、女性解放思想とも関連した「科学」的優生思想等々の問題群とも交差した。そういう意味で、西欧・日本と「はなから異なる」中国近代の姿があったわけではない。なかでもアジアにおける近代の問題の共有にむきあってこそ、日本の侵略戦争の重さと、とるべき責任をより深刻に思想化しうる契機があると思う。男性史に傾きがちな中国思想史の研究に女性史を加えるかたちではなく、ジェンダー化するための試みに込めた以上のような問題意識を、拙著からいささかでも汲み取っていただければ幸いです。
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連鎖する中国近代の“知”


坂元ひろ子著

十九世紀~二〇世紀前半の初期グローバル化の時代に多様なかたちで練成された中国近代の知の様相を、譚嗣同・章炳麟・熊十力・梁漱溟・李叔同(弘一法師)等の思想に読み取る。



Ⅰ 譚嗣同

中国近代思想の一断面―譚嗣同の以太(エーテル)論/譚嗣同の思想と民俗アイデンティティーとジェンダー意識/楊文会

Ⅱ 章炳麟

章炳麟の個の思想と唯識仏教―中国近代における万物一体論の行方/章炳麟における伝統の創造/章炳麟の道家・仏教思想と身体・性・医学観試論

Ⅲ 熊十力

熊十力『新唯識論』哲学の形成―二〇世紀前半の中国哲学思想世界を通して/島田虔次著『新儒学家哲学について―熊十力の哲学』について

Ⅳ 梁漱溟

民国期における梁漱溟思想の位置づけ―「現代新儒家」規定を超えて/仏教と西欧哲学/「東西文化」論/「東西」論から「郷村」論へ/梁漱溟におけるジェンダー意識

Ⅴ 李叔同

李叔同(弘一法師)の思想―馬一浮の思想、豊子愷の芸術巻との関連において

A5判 272頁 2009年11月発行 ISBN978-4-87636-306-3
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