2024-09-28

YOASOBI King Gnu 羊文学 J-POPアーティストが韓国で公演ラッシュ K-POP発信地でなぜ? | NHK | WEB特集 | 韓国

YOASOBI King Gnu 羊文学 J-POPアーティストが韓国で公演ラッシュ K-POP発信地でなぜ? | NHK | WEB特集 | 韓国




J-POP有名アーティストが韓国で異例の公演ラッシュ なぜ?

2024年6月21日 19時56分


いま韓国では、若い世代を中心に日本のアーティストの楽曲が人気を集めています。

韓国公演は相次いで行われ、チケットは即完売。韓国の音楽業界関係者からは「期待をはるかに超えた熱い反応」という声まで出ています。

世界中で人気を集めるK-POPの発信地である韓国で、いまなぜ日本の音楽が若者たちの心をつかんでいるのでしょうか。

(ソウル支局 長砂貴英)

高まるJ-POP熱 1分以内に即完売
「♪彼が言ったことば 何度も思い返して」

2024年3月、ロックバンド「羊文学」が韓国で開いた単独公演。「羊文学」のソウル公演(2024年3月)
力強くも繊細な楽曲は韓国の音楽ファンの心をつかみ、1000人近く収容できるライブハウスは大勢の観客でいっぱいになりました。

人気アニメ「呪術廻戦」のエンディング曲の演奏が始まると、会場からは歓声が上がり、涙するファンの姿も見られました。
「胸がドキドキして公演中に涙も出ました。本当に良かったです」(20代女性ファン)
「チケットを取るために一晩中、予約サイトをクリックしてようやく来られました」(20代男性ファン)
公演のあと、メンバーに話を聞くと公演の熱気に驚いたと話していました。公演後の「羊文学」メンバー(中央が塩塚モエカさん)
羊文学 塩塚モエカさん
「最初はもっと小さなライブハウスをおさえていたのですけれど、チケットが即完売というのを受けて大きなライブハウスに変更しました。
こんなに私たちの曲を聞いてくださるというのは、今回のライブの反応を見て驚きでした」
韓国ではいま、日本の有名アーティストの公演が相次いでいます。「King Gnu」の公演前 会場に並ぶファン(ソウル 2024年4月)
2024年4月にソウルで開かれたロックバンド「King Gnu」の単独公演は4000人分のチケットが瞬く間に完売。

急きょ追加公演も決まり、2日間で8000人のファンが押しかけ、公演前の会場には入場を待つ人たちで長蛇の列が出来ました。

2023年12月に開かれた音楽ユニット「YOASOBI」の公演は特に大きな話題となりました。「YOASOBI」のソウル公演(2023年12月)
韓国では、「YOASOBI」のヒット曲「アイドル」にあわせてK-POPアーティストたちが踊る動画が動画アプリのTikTok(ティックトック)に次々に投稿されたことで人気に火がついていました。

4000人を超えるファンで満席となった会場でヒット曲の「群青」が演奏されると、日本語で大合唱するファンたちの声が響きました。チケットは1分で完売し、さらに追加公演も行われました。
2023年末以降、これまでに10以上のJ-POPの公演が開かれています。

現地では異例のペースだとして「J-POPの公演ラッシュだ」と報じられています。
アニメ入り口にSNSへ
長年韓国で日本のアーティストの公演に携わり、4月のKing Gnuのコンサートで韓国側主催者だった企画会社の副代表は、予想以上の反響だったと説明します。企画会社イ・チャンイ(李昌儀)副代表
イ・チャンイ副代表
「以前にも、日本のアーティストが韓国で公演することはありました。しかし“公演ラッシュ”と呼ばれるほどではありませんでした。
誰かが公演するとか、チケットの販売が始まるというような情報の拡散速度は以前と大きく違います。King Gnuの公演も反応はいいだろうと予想していましたが、期待をはるかに超えた熱い反応でした。
日本の音楽が韓国に入ってくる最も大きいルートはアニメではないかと思います。ネットフリックスなどの動画配信サービスを通してアニメとタイアップした日本のアーティストの曲に多く接することになり、SNSで拡散することで簡単に日本の音楽にアプローチすることができるようになりました。
ファンが自分の好きな音楽を能動的に探すようになり、日本の音楽の大衆化が進んでファン層が広がっています」
20年前までは日本音楽を規制
こうして受け入れられるようになった日本の音楽ですが、かつて韓国政府はCDなどの流通や販売を厳しく規制していました。

日本の植民地支配の歴史を理由に国民感情に配慮するという理由です。

それが1998年、当時のキム・デジュン(金大中)政権が日本の大衆文化を段階的に開放していくと表明。音楽は2004年に全面的に開放されました。J-POPのCD売り場(ソウル 2004年)
ただ、その後も日本の音楽は韓国の音楽市場で大きな存在感はありませんでした。また、規制がなくなったいまも地上波のテレビ番組でJ-POPが放送される機会はめったにありません。

J-POPに関する著書もある音楽評論家のファン・ソノプ(黄善業)さんは、K-POPの隆盛や日本の音楽業界でデジタル発信が遅れたことも、日本の音楽が韓国で広く受け入れられてこなかった背景にあると指摘します。音楽評論家ファン・ソノプ(黄善業)さん
ファン・ソノプさん
「日本のアーティストの中には文化開放直後、積極的にプロモーションを行ったアーティストもいました。ケーブルテレビの音楽チャンネルでも日本の音楽を紹介する番組を始めましたが、その勢いは2、3年で止まったと思います。
その後、韓国の市場をK-POPが占めるようになり、日本の音楽が割り込む余地はなかなかありませんでした。
日本の音楽は、YouTubeなどに音源やミュージックビデオをあまり公開せず、デジタル配信サービスも多くなく、本格的にストリーミングされ始めたと感じるのは、2010年代半ばから後半に入ってからでした。
いまは動画サイトやSNSなど様々な形で音楽を聴く中で、日本の音楽が選択肢に入る状況になったと言えます」
J-POP聞き始めた若者たち 大学1年生のイ・ユジョン(李侑定)さん
日本の音楽を聴くようになったという、大学1年生イ・ユジョン(李侑定)さんに話を聞きました。

イさんはもともとK-POPを中心に聴いていましたが、高校生のころからJ-POPも聴くようになりました。やはりきっかけは、好きな日本のアニメで使われていた曲だったといいます。

いまはYOASOBIや米津玄師さんのファンで、取材した日は米津さんの曲「Lemon」を日本語で口ずさんでくれました。
イ・ユジョンさん
「Lemonは米津玄師さんが祖父を亡くした時の思いを受けた曲だと聞きました。日本の曲はさまざまなテーマを持つ歌詞が多いように感じて、それを調べてみるのもとても楽しいです。
以前は日本の歌を聴いていると言うと周囲からは『オタクなの?』という反応でした。いまは日本に関心がない友だちでも日本の歌を口ずさんでいて『SNSで耳にして気に入ったから聴いている』と話していました。
すべての人がJ-POPに接しているわけではないと思いますが、SNSに流れている日本の音楽は韓国の人たちのなかで広く受け入れられていると感じています」
韓国発でグローバル発信も
韓国で日本音楽の人気が高まりを見せるなかで、世界的に利用されている韓国発のオンラインサービスに日本のアーティストが参加する動きも出ています。

アーティストがみずからライブを配信しファンと直接メッセージをやり取りするSNSのような交流が特徴のこのオンラインサービス。

BTSやNew JeansなどK-POPのアーティストが多数参加していて、運営会社によりますとアプリはこれまでに1億回以上ダウンロードされました。
翻訳機能も備えていて、日本やアメリカ、東南アジアなど世界中にユーザーを持ち、毎月およそ1000万人が利用しているといいます。

2023年以降日本のアーティストが続々と参加するようになり、現在では130余りのアーティストのうち1割ほどを占めていて、YOASOBIやimase、AKB48などがこのサービスでファンと交流しています。

運営会社は、アーティストが世界でファンを獲得するための重要なプラットフォーム(世界発信の基盤)になっているとしています。オンラインサービス運営会社チェ・ジュノン(崔峻源)社長
チェ・ジュノン社長
「強力なコンテンツで、より積極的に海外市場に進出しようとする日本のアーティストが多いです。
日本を超えてグローバルな影響力を拡大していきたいというニーズの強いアーティストたちがこのサービスを活用しています」
国を超える文化の力
世界的にヒットしているK-POPの発信地、韓国で高まる日本の音楽人気。

専門家たちは世界につながる動きだと説明します。ぴあ総研 笹井裕子所長
笹井裕子所長
「韓国でヒットすることが、すなわち国際的な認知度を高めたり人気を高めたりという一助になるという認識を持つ日本のアーティストもいて、積極的な進出が図られているのではないでしょうか。
世界の市場を見て、ファンを獲得することを目指していくなかで韓国の音楽市場の勢いを見ていくと、そこで受け入れられているというのはアーティスト自身のブランド力、人気の1つのバロメーターとしてアピールできるものになると思います」
日本と韓国のポップス史に詳しい北海道大学のキム・ソンミン教授は、日韓両国でそれぞれJ-POP、K-POPが受け入れられている現状は、新たな日韓関係をみていく視点になると指摘します。北海道大学キム・ソンミン(金成ミン※)教授 (※ミン=王へんに文)
キム・ソンミン教授
「2010年代のソーシャルメディアによる拡散によってナショナルとナショナル(国と国)だけでは捉えられない、それを乗り越えてしまうようなグローバルなファンのつながりが出来てきました。
政治的な日韓関係という国と国の互いの利害関係ということを超えた形の音楽市場が形成されてきたと言えます。
従来は互いの文化交流にどのような影響があるのかという見方をされることがありましたが、ナショナルな次元を超えたからこそ見えてくる新たなつながりが日韓関係にどのような影響を及ぼすのか、新たな可能性を生み出していくのかというところを今後見ていく必要があると思います」
2024年5月、韓国の音楽業界の関係者から日本のロックバンド「Novelbright」がソウルの繁華街カンナム(江南)で路上コンサートを開催すると聞いて、カメラマンとともに取材に向かいました。ソウルで路上公演を行った「Novelbright」のメンバー(2024年5月)
当日はあいにくの大雨。しかし、会場に到着すると大勢のレインコート姿のファンがメンバーの到着を待っていました。

バンドのメンバーは演奏の合間に、ソウルで開くコンサートの予定などを伝え、ファンからは歓声が上がっていました。

国内の音楽市場の規模がアメリカに次いで世界2番目といわれる日本の音楽業界。

CDの売り上げが減少するなかで、コロナ禍を経てデジタル配信や国を超えたファンの獲得と交流に力を入れてきました。それは、韓国の音楽が日本に先駆けて進めてきた形でもあります。

日本ではK-POPが広く親しまれるようになって、すでに久しくなっています。そしていま、韓国でJ-POPが若者を中心に以前に増して聴かれるようになってきました。

日韓それぞれで響くJ-POP、K-POPは、音楽という新たな側面の両国関係をつくっていくのかもしれません。

(6月9日 おはよう日本で放送)

ソウル支局記者
長砂 貴英
2007年入局 新潟局 中国総局(北京) 山口局などを経て現所属
朝鮮半島情勢を中心に取材

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