2019-07-30

No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! – 一般社団法人 北海道建築技術協会

No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! – 一般社団法人 北海道建築技術協会

2019年2月11日
No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで!





ちょっと真面目チョット皮肉 177

石山祐二*

以前( 2011 年 6 月)、同じ著者の「東京へ原発を」を紹介し、その中で「機会があったら標題の本を紹介したい」と書いたことが気になっていた。すぐにとも思ったが、冷静に考えてみたいという理由もあり、今回となった。
センセーショナルな題名の本書は、2011 年東日本大震災の前年 8 月に書かれている。「大地震動によって原子力発電所(原発)が被害を受け、コントロール不能となり、日本列島の大部分は人間が住むことができない程の被害を受ける可能性が高いので、即座に原発を止めるべき」ということが書いてある。写真 広瀬隆著「原子炉時限爆弾」 (ダイヤモンド社2010 年発行)
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序章「原発震災が日本を襲う」では、原発震災が発生すると放射能汚染によって、日本の大部分は住むことができなくなる。その損害は(保険会社や電力会社は補償せず)国民の負担となる。このようなことを多くの日本人は理解していないと警告している。

第 1 章「浜岡原発を揺るがす東海大地震」では、東海地震の起こる確率が高まっており、地震発生によって浜岡原発が大きな被害を受けることになる。被害程度によっては、日本が壊滅してしまう。

第 2 章「地震と地球の基礎知識」は、地球の成り立ち、大陸移動説、日本列島の誕生など地球物理学の教科書的な内容が大部分である。地球は生きていて、変動している。地球の長い歴史から見て、ごく最近誕生した日本列島はまだまだ変化していて、どこでも地震・火山が起こり得るので、原発に安全な場所はない。

第 3 章「地震列島になぜ原発が林立したか」では、発生する地震の規模と被害を低く想定し、原発を造っている。強固な地盤上に原発は建設されているとしているが、日本にはそのような強固な地盤はない。近年の地震によって記録された地震動は、設計で用いた値よりも数倍大きな値となっていることがある。

第 4 章「原子力発電の断末魔」では、作ってしまえばもう消すことのできない放射能について書かれている。原発から出る高レベル放射能廃棄物は、冷却し続けながら長期間保管する必要がある。米国では「 100 万年間、監視続けなければいけない」との報告もある。
「電力会社へのあとがき」では、原発震災が差し迫っているので、電力会社には原発を早急に止めて欲しいと懇願している。

本書のすべてに納得している訳ではないが、原発に関しては( 2011 年 6 月にも書いたように)未解決の問題があるのに運転していることに最大の問題がある。原発から出る(1) 放射性廃棄物を長年保管し(現在は原発の敷地内で)、(2) それから原発に再利用できる物質を取り出し(これが再処理)、(3) 残りの「高レベル放射性廃棄物」をガラスの容器に封じ込め(ガラス固化体)、(4) それをステンレスの容器に入れ(高レベル放射性廃棄物を専用の貯蔵庫に 30~50 年間)保管し、(5) 最終的には地下深くで数万年~数十万年間保管(地層処分)することになる。

以上の各ステップの技術すべてが完成されているとはいえず、試行錯誤を繰り返しているものもある。地層処分を始めた北欧の地層は数億年前にできた安定した地盤のようであるが、日本列島が生まれたのはせいぜい数千万年前で、地層処分に適する場所を見つけるのは難しく、引き受ける自治体もなさそうである。それを海外に依頼することも難しいし、引き受けてもらうことができたとしても、その費用は莫大かつ長期間となる。

原発の使用中の安全性を高めることはもちろん重要であるが、使用後の廃炉・放射性廃棄物の処理もそれと同等以上に重要である。(原発の寿命である)100 年程度の短期的と同時に(処分に要する)数万年以上の長期的な安全性と経済性が分からなければ、原発の可否についての判断はできないと思っている。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2018.10 原稿

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