2017-03-17

「政治的な思惑はない」発言者の思惑とは? オーストラリア「慰安婦」像をめぐる「情報戦」を読み解く | クーリエ・ジャポン

「政治的な思惑はない」発言者の思惑とは? オーストラリア「慰安婦」像をめぐる「情報戦」を読み解く | クーリエ・ジャポン


2016年8月、シドニー郊外の教会敷地内に「慰安婦」像が設置され、除幕式がおこなわれた
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「慰安婦」問題が、オーストラリアでも議論を呼んでいる。現地で積極的に「情報戦」を仕掛けているのは、日本の極右団体、そしてあの宗教団体だという──。

アジア地域研究で国際的に知られるオーストラリア国立大学のテッサ・モーリス=スズキ教授が、豪「インサイド・ストーリー」誌に寄せた論考を転載する。

エスニックマイノリティに属する少数者のグループが、自分たちのコミュニティを差別から守るために集まっているとしたら、その行動は同情を禁じ得ないものである。

2016年12月14日、シドニーに拠点を置く日系住民の団体「オーストラリア・ジャパン・コミュニティ・ネットワーク(AJCN)」代表の山岡鉄秀が、そんな同情を誘発する訴えを起こした。

山岡によれば、AJCNは、オーストラリアの人種差別禁止法18c項にもとづき、アッシュフィールド連合教会が日系住民を差別をしている、とオーストラリア連邦人権委員会に救済の提訴をしたとのこと。皮肉だが、この18c項は、近年、オーストラリア国内の右派から厳しい批判にさらされている条項だ。

日系住民がシドニー近郊の教会を人種・民族差別に基づき提訴したと聞くと意外に思えるかもしれない。だが、この提訴の焦点は、教会そのものではなく、教会の敷地内に置かれた小さな像である。

この像は、日本軍従軍「慰安婦」の歴史を記憶するために建てられている。「慰安婦」とは、アジア太平洋戦争中、日本軍将兵用の「慰安所」で「性労働」を強要された数万人の女性たちを指す。

AJCNの主張によれば、この像の設置は、オーストラリアで暮らす日系住民への人種・民族的憎悪を煽り、AJCNの今回の訴えには、政治的な思惑は一切ないとする。

「この提訴は政治的なものではなく、地元で暮らすお母さん方やお父さん方、つまり子どもをもつ親御さんたちから心配の声が出て、そうした声に応えるためのものである」

と、山岡は「ABC(オーストラリア放送協会)」の番組「7.30」に出演し、述べた。なるほどAJCNのメンバーは、「慰安婦」像設置の余波を心配するシドニー在住の日系の親を含むのかもしれない。しかし、この団体の活動が、日系住民への人種的・民族的敵意が高まることを懸念した草の根の訴えだというのは、控え目に見積もっても誠実ではない。

オーストラリア連合教会、(以前、「慰安婦像」問題に巻き込まれた)ストラスフィールド市議会、(今回、AJCNが提訴した)連邦人権委員会などのオーストラリアの諸組織は、この提訴の背景を知る権利がある。

「慰安婦」論争が日本で再燃したのは2012年の第二次安倍内閣の発足がきっかけだった。政権与党内の右派と一部の日本メディアが、自分の意思に反して「慰安婦」に動員された女性たちが存在したことを否定しようとしたのである。

実際には、女性たちが就職あっせん詐欺や脅迫ないし、ときとして暴力をともなって「慰安婦」として動員されたことは、世界各地の文章記録や証言および(日本でのものを含む)司法判断で実証されており、日本政府も以前はそれを公的に認めていた。

ところが日本国内で「否定論」の勃興が起きて、それに反応するように、多くの国で、元「慰安婦」を支援する人たちが正義を求める活動を始めた。いまアッシュフィールド連合教会の敷地内に置かれている「慰安婦」像も、こうした事情のなかで設立が計画された。計画を立案したのは、韓国系・中国系の住民を中心としたシドニー市民の団体だった。

当初の計画では、この像はストラスフィールドの公園内に設置されることになっていたが、これには即座に反発が起きた。反対運動の先鋒を務めたのは「なでしこアクション」という団体である。この団体は、Change.orgで慰安婦像設置反対の署名活動を始めた。

「なでしこアクション」は、2011年に創設された歴史修正主義の極右団体である。代表指導者の山本優美子(別名・桜ゆみこ)は以前、日本の「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の事務局長でもあった人物だ。在特会は、日本国内でエスニックマイノリティに対する人種・民族差別的な嫌がらせ活動を続けており、そのことですでに賠償の司法判断が下された団体である。

日本の新興宗教「幸福の科学」が出版するオンラインジャーナル「ザ・リバティWeb」でも、ストラスフィールド市における「慰安婦」像設置の計画が強く非難された。「幸福の科学」は2012年、数百万ドルを投じてシドニーにネオクラシカル様式の精舎をオープンさせている。
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