日本思想史の名著30
千数百年におよぶ日本思想史上には、画期となる名著が多数生まれてきた。あるときは神話や物語、説話の形をとり、またあるときは歴史書・史論、社会・政治評論、そして近現代にはアカデミズムの産物として現れてきた研究書や「日本国憲法」などの法文││それらの名著群を博捜するなかから三十点を選りすぐり読み解くことで、「人間とは何か」「人間社会とは何か」という普遍的な問いに応える各時代の思考様式を明らかにする。遠い過去の思考に、現代を考えるヒントをさぐる。
日本思想史の名著30 のユーザーレビュー
4.7
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Posted by ブクログ
本書は、かつてWebちくまに掲載されていた筆者による思想史上の名著(後述)のレビューを一冊にまとめた本です。元々ネットに発表されたものであるため、解説自体はかなり入門的に留まっており詳しい解説はなされていません。
【こんな人におすすめ】
思想史の入門書を探している人
昔の人の思想に触れてみたいけど、いきなり思想書を読むのは難しいと思っている人
日本思想の概要を知りたい人
【目次】
古事記
憲法十七条
日本霊異記
愚管抄
歎異抄
立正安国論
神皇正統記
大和小学
西洋紀聞
童子問
政談
葉隠
夢の代
稽古談
くず花
霊の真柱
新論
国是三論
文明論之概略
三酔人経綸問答
将来の日本
教育勅語
憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず
原始女子は太陽であった
明治大正史―世相編
倫理学
人間と実存
日本国憲法
忠誠と反逆
日本人の心
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日本から
美しい夏
5つ星のうち5.0 古代中世7作品、江戸時代9作品、幕末・明治6作品、明治末・大正・戦前5作品、戦後3作品の解説・レビュー。面白い。
2018年7月7日に日本でレビュー済み
フォーマット: 新書Amazonで購入
題名の通り。「日本思想史の名著30」の解説・レビューである。一作品あたりの分量は8~11ページ。構成はⅠ古代中世7作品、Ⅱ江戸時代9作品、Ⅲ幕末・明治6作品、Ⅳ明治末・大正・戦前5作品+戦後3作品である。
私的感想
○Ⅰの古代中世は作者自身が手薄と認めているが、密教・浄土宗、禅宗関連がごっそり抜けて、説話集「日本霊異記」が入っている以外は、一般的な作品選択と思う。「愚管抄」「立正安国論」「神皇正統記」のちょっと斜めの視点からの新鮮な著述が楽しい。
○Ⅱの江戸時代は代表思想家がおおむね網羅されている。テーマは山崎闇斉・・女性向け設定の朱子学書。新井白石・・異文化理解の態度。伊藤仁斎・・反知性主義? 卑近の重視。荻生徂徠・・制度と秩序のユートピア。山本常朝(葉隠)・・日常の仕事に命をかけることなどなど・・・・すっきりしすぎている感もあるが、江戸思想書の解説としてはたいへんわかりやすい
○Ⅲの幕末明治は政治体制、対外関係論の本が並ぶ。徳富蘇峰は初期のデモクラシー色の強い本が選ばれている。最後の「教育勅語」は「普遍主義」「君主権力の制限」につながる要素が評価されている。
○Ⅳのうちの「明治・大正・戦前」で、平塚らいてうが選ばれており、30作品のうちの唯一の女性となっている。和辻哲郎は「倫理学」という大部すぎる作品が選ばれている。九鬼周造もちょっと難しい「人間と実存」のほうが選ばれている。
○Ⅳの戦後は、日本国憲法、丸山眞男、相良亨である。
私的結論
Ⅲの22冊目までは、思想家、作品選択も妥当で、面白く読めた。読みやすい。値段分の価値は充分ある。
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レポート
榎戸 誠
5つ星のうち5.0 未知の著作に触れる喜びを与えてくれる一冊
2018年11月23日に日本でレビュー済み
フォーマット: 新書
『日本思想史の名著30』(苅部直著、ちくま新書)では、日本思想史に影響を与えた30の古典が取り上げられています。
この中で、とりわけ興味深いのは、伊藤仁斎の『童子問』、荻生徂徠の『政談』、山片蟠桃の『夢ノ代』の3つの書物です。
『童子問』について。「書物を読み、著作を書き記すことのできる人々のあいだでは、朱子学がしだいに普及しつつあった。天地自然と人間社会の両方を貫く『理』を根拠として、森羅万象を説明する壮大な理論体系に基づき、四書五経をはじめとする儒学の経書を学ぶことが、知識人の常識になったのである。この朱子学の方法に対して、徹底的な批判を加え、孔子によって体系化された本来の儒学思想の姿を復活させることを唱えた儒者が、伊藤仁斎(1627~1705年)にほかならない。そこで人の生きるべき『道』のありさまを示す語として好んで用いたのが『卑近』である。『道』とは、朱子学が説くような『高遠』な『理』によって支えられるものではない。日常生活において人々がふるまう、身近な『徳』の行ないとして現われるものである。――こうした仁斎の主張から、権威づけられた『高遠』な知のあり方に対する徹底した批判を読みとることも、また可能だろう」。
「孔子の『教』とは、それぞれに限界を抱えた個人がそのままで、『天下』全体に通用する『道』によりそいながら生きてゆくことを可能にするものであった」。
『政談』について。「伊藤仁斎と同様に、人間の本来的な共通性を説く朱子学の理論を批判し、生まれつきの性質としての『性』は個人によって異なると考え、それぞれの才能を伸ばすことを、徂徠(1666~1728年)は重視している」。
「『政談』では、『大臣』すなわち公儀の要職にある人々が、いかにして旗本・御家人からの人材登用を行なうか、また彼らをいかに有用な役人に育てるかに関する提言として説明している。そもそも徂徠の考えでは、統治者である武士に限らず、百姓・町人もまた、それぞれの家職を務めることを通じて、統治の営みを手伝っている存在であった。人材の登用に関して徂徠は言う。『一くせあるものに、勝れたる人多き物也』。組織のなかで上下左右を見渡して、みなと同じように、めだたないように自制しながら働くような人物は、結局のところ自分にせっかく備わっている才能を殺してしまっている。むしろ『くせ』のある、使いづらい人物の方が、自分の個性に根ざした『才能』をのびのびと発揮するだろう。人格に多少の難点があっても、上に立つ『大臣』は、大きな『器量』をもってその人物を適当な役職につけ、その『才能』を秩序の運営へと役立てることが必要なのである。そうすれば本人も抜擢されたことを喜び、熱心に職務に励むことになるだろう」。現在も、心すべき人材登用法ですね。
『夢ノ代』について。「『夢ノ代』は、全12巻からなる著書である。その内訳として各巻の題名を挙げると、天文・地理・神代・歴代・制度・経済・経論・雑書・異端・無鬼・雑論となる。現代の学問分野になぞらえるなら、まさしく天文学、地理学、神話学、歴史学、政治学、経済学と、諸学を総覧した簡単な百科全書のような書物である」。徂徠の著書等に学んだ蟠桃(1748~1821年)が『夢ノ代』を完成させたのは、執筆に着手してから実に18年後の73歳に達した時でした。
「(『無鬼』の)『鬼』とは第一には日本の昔話や仏教説話に出てくる、角を生やした人間の形をした妖怪のことではない。ただしそうした神秘的な働きをする存在を一括して、儒学では『鬼神』と呼ぶ。『鬼』と特に限定していう場合は、死者の霊魂のことを意味する。そうした『鬼神』が現実のこの世に現われ、影響を及ぼすという考えを、蟠桃は徹底して否定するのである」。江戸時代に百科事典のような著作が存在したことに驚かされます。
未知の著作に触れる喜びを、本書から与えられました。
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