2025-11-13

戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで 森 政稔: 本

Amazon.co.jp: 戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで (NHKブックス 1261) : 森 政稔: 本




戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで (NHKブックス 1261) 単行本 – 2020/3/25
森 政稔 (著)
4.0 5つ星のうち4.0 (51)


複雑な現代史をクリアに見通す、画期的な思想史!

日本の敗戦から75年が経過した。今でも世界3位という経済大国の地位に到達した誇るべき社会にはしかし、一種の停滞感と閉塞感、いわばあきらめのムードが、特に若者の間で漂う。本当に、いま、「この道しかない」のか? 日本は本当に「変わらない、変われない」と、運命論的に捉えてしまっていていいのか? こうした態度に対し、留学生たちから疑問の声が著者へ寄せられるようになって久しい。
一方で優秀な研究者は、実証できること、論文を書けることを重視した研究に走らざるを得ない状況もあり、とくにそうした傾向の強い政治・社会哲学領域では、せいぜい遡っても1970年代のロールズまで、それ以前は知らない、という歴史感覚の稀薄さが散見される。研究者ですらこうである以上、一般の人々にとって歴史への意識は乏しく、せいぜい30年前にどんな議論があり、その時代はどう捉えられていたかも、想像すらできないのが実情である。
さらに、「戦後体制の清算」が叫ばれるようになり、戦後継承されてきた制度や価値が、「時代に合わない」という言葉を基準として捨て去られようとし、憲法や平和主義すら少しずつ変わり続ける状況にあること。
本書はこうした状況に対して、「現代が必ず過去の時代より優れているわけではない」こと、「過去の議論の蓄積はたやすく忘却されてしまい、そのため無益な議論の繰り返しが起きがちである」ことなどを警告する。そして浅薄な「時代」理解を避け、「現代とは、過去を踏まえてどのような時代となっているのか」ということを正確に理解するために、戦後の「社会科学」が、各々の時代をどのように理解してきたのかを大局的な視点から概括して、戦後の一流の知識人たちの思考のあとをたどる。なお社会科学とは、経済学、政治学、法学、社会学などの社会を対象とする諸学問の総称だが、著者にとってそれは、「個別の社会領域を超えて時代のあり方を学問的に踏まえつつ社会にヴィジョンを与えるような知的営み」である。
具体的には、戦後から現在までを次の4つの時代に区切って思想史を描きなおす。
1 欧米の近代民主主義などの思想を学び直すことが日本の再出発にとって不可欠とされた戦後期
2 高度経済成長のなかで到来した大衆社会化を、欧米と同時代的な現象ととらえるようになった1950―60年代
3 世界同時的に「奇妙な革命」が起きた1960―70年代
4 保守化と新自由主義化のその後、現代まで
これらの各期に、立場を問わず、論者たちが共有していた「現代とはどのような時代か」という問題意識を的確にまとめて記述していくことで、今の私たちにとっての「現代」が、上記4つの時代に起きた「社会の変化」の複層によって出来上がっていることを示す。「現代とはどのような時代か」を正確に理解したうえで、運命論から逃れ、可能な未来を切りひらいていくための、きわめて公平かつ分かりやすい「社会科学」入門書である。
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著者について
1959年三重県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程中退。筑波大学社会科学系講師などを経て東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授。専攻は政治・社会思想史。著書に『変貌する民主主義』『迷走する民主主義』(ともにちくま新書)、『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結』(青土社)がある。
登録情報
出版社 ‏ : ‎ NHK出版 (2020/3/25)
発売日 ‏ : ‎ 2020/3/25
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本 ‏ : ‎ 302ページ


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日本から


安楽子
5つ星のうち5.0 戦後から今日までの主な政治思想と社会思想を概観している 良く整理されていると思う
2025年5月3日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本Amazonで購入
〇 東京大学での講義をもとにした本。「社会科学」というが、領域はおもに政治学と社会学。経済学はほとんど触れていない。


〇 いくつかの読み方ができると思うが、なんといっても第一に、第二次大戦後の日本の政治社会思想の流れをつかむのに適している。そもそも本書の構成が次のようになっている:
1)丸山真男を中心とした戦後の政治思想=日本社会の前近代性とその近代化の必要が議論の中心になった
2)大衆社会論=民主主義と経済成長がもたらした大衆社会の分析と評価について行われた
3)既存の権威に反発するニューレフト(新左翼)の登場=既存の権威に反発抵抗して、何事であれ自分自身の手触りを得ようとした。既存の社会主義体制にも反発した
4)市場経済を重視する新自由主義の台頭=政府の限界を認識し、政治がものごとに介入しないように求めた


〇 とりあげる思想家を登場順に拾ってみると主な者だけでも、丸山真男、大塚久雄、講座派、大河内一男、高島善哉、内田義彦、平田清明、フランクフルト学派、サルトル、鶴見俊介、Eフロム、Hアレント、Dリースマン、コーンハウザー、松下圭一、マルクーゼ、トゥレーヌ、鶴見和子、ポスト構造主義、ロールズ、ノージック、ポランニー、ハイエク、ダニエル・ベル、フーコー、ネオマルクス主義、ポストモダニズム、ウォルフレン・・・とまあ大変なことになっている。


〇 これだけ数多く取り上げると、それぞれについての議論は簡単かつ表面的になる。物足りないと思うことも多い。そう思ったときには、本書は読書案内として使える。大学の講義ノートがもとになっている本書の本当の狙いは、あるいはここに紹介した本を読んでみろということだったのかもしれない。


〇 本書から私が得た収穫としては、ニューレフト(新左翼)についてはじめて明確なイメージを持つことができたのが大きい。他方で新自由主義に関する議論はあまりに急ぎすぎていると感じた。ポイントをつかみきれなかった。
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カレドニアの旅人
5つ星のうち4.0 第二次大戦後から直近までのかなり包括的な社会思想史
2020年3月28日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本Amazonで購入
東大駒場の「相関社会科学基礎論I」の講義ノートを基に、日本と欧米(英米独仏)の現代思想史を広角に展望した労作である。現役東大教授の講義として一気に通読した。かなり包括的な内容だが、専門外のことは極力控えるという謙虚さもあり、バランスのとれた叙述である。戦後の市民社会論、大衆社会論、ニューレフト、新保守主義という4大トピックの設定は歴史の切り出し方として有益である。もちろん他の設定も可能であろう。個々の論点の説明は簡明である反面、掘り下げが足りないと思った。思想史の本の醍醐味は分析の深さにあるというのが私の見解だが、本のサイズの限界もあるだろう。とはいえ、私は著者より10年ほど老人なのだが、多くを教わった。個々の論点の紹介は断念する。91頁の「リストがアメリカ革命時のA・ハミルトンに影響を与えた・・・」とあるのは逆。この種のミスは昔なら編集者・校閲者が見つけてくれただろう。こう書いたからと言って本書の価値を貶めるつもりはない。いろいろ考えさせる内容の好著である。
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hiroha
5つ星のうち5.0 現在の世界・日本の政治と経済を見直す良書です
2020年6月18日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本Amazonで購入
読者の哲学・世界観によって 現在の政治・経済の現状を評する結果は 大きく違って来るのだが 本書によって
幅広く・深められた視点によって それらが示された時 読者は 新たな想いを得るでしょう。
 米国の大統領・人種差別・パンデミック対応・経済的格差・破綻が予測される企業への救済政策等々について
読者の想いのあり方の根底が問われるのだろう、 
 特に 第八章新保守主義の諸相・第九章新自由主義と統治性の問題は 関心ある人は 要必読でしょう。
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gm300
5つ星のうち4.0 考えるヒントになる本。体操すわりは..
2022年10月2日に日本でレビュー済み
体操座りは戦後日本が発明したような説明になっていますが、違います。大英博物館で調べてきました。南米にもあります。エジプトにもあります。
大英博物館を訪問している間にもこの本に書いてあることを思い返していました。体操座り以外についても、新しい理解の視点を頂けました。
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koishikawa
5つ星のうち5.0 両ケイイチ先生の本を読みたくなった
2022年2月14日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本
深い学殖と広い目配りを感じさせる好著である。軽い気持ちで読みはじめたが、内容の濃さに驚き、傍線を引きながら、慎重に読み進めることにした。四部構成で、全九章。ひとつひとつの章に、凡庸な入門書一冊分の内容が詰まっていた。
 どの章もおもしろかったが、特に、大衆社会論を扱った第五章がよかった。作田啓一、松下圭一両ケイイチ先生の本を読んでみようという気になった。また、サルトルの実存主義に対する論評(第四章)も、簡にして要を得たもので、著者の力量を感じさせた。
 巻末の「参考文献」は、読書案内としても有効である。ただ、本文140ページに(作田1996→1972)とあるにもかかわらず、それに相当する文献名がないのは気になった。
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mountainside
5つ星のうち4.0 戦後民主主義は日本が独自に選択したのか?
2020年3月28日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本
戦後「社会科学」な発展を制度と思想の二つの枠組みから論じる著者の講義ノートを本にしたものである。
①戦後民主主義は戦争の惨禍を繰り返さないために日本が単独に選択した制度的枠組みであって、アメリカによって与えられたものではないと述べる。
②近年な敗戦後論を否定する論調に驚いた。まず、「民主主義」という近代欧米型の政治制度は日本が経験したことのない仕組みであり、戦前まで軍国主義(日本型ファシズム=民主主義の否定)体制で戦争を遂行してきた日本が戦争の惨禍を繰り返さないために自らの意志で選択しえたのは戦争の惨禍を繰り返さないためであったのだろうか?
③松本国務大臣がGHQ(連合国軍総司令部)長官マッカーサーに提出した新憲法案は明治憲法に類似した天皇制国家を志向するものであった。民主国家の思想はなく、主眼は天皇中心の国体護持の憲法案であり、これを根本から否定し、日本の軍国主義を否定し、民主的な憲法案を提示したのはGHQ(マッカーサー)案であり、この米国提示の憲法案を日本語に翻訳して帝国議会で審議し、国情に合うように字句を修正して可決されたのが、現行の日本国憲法ではないか?こうした歴史的事実を著者は日本国が自らの意志で選択した憲法であり、米国に押し付けられたものであると断言する根拠はどこにあるのであろうか?
④戦後の日本における社会科学の名著としては、半世紀前の岩波新書の名著である大塚久雄『社会科学の方法』や高島善哉『社会科学入門』、『アダム・スミス』の方が分かりやすく、しかも面白い。マルクスやウェーバーの思想を知りたければ、現在もなお絶版にならずに出版されているこれらの名著から読むべきだ。そしてウェーバーの『社会学の根本概念』『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、マルクスの『資本論』(いずれも岩波文庫に翻訳あり)を読めば良い。
本書は近年な社会科学の動向まで理論的射程を含む。その記述は参考になる。
そうした意味ではお勧めの一冊だ。
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Mt.Shirane
5つ星のうち4.0 蟄居する老人が過去を振り返るに良いかもしれない
2020年5月19日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本
 1945年から現在までの思想史、社会科学の概観を目指して書かれた本です。
個々の思想家や問題意識を大きな流れの中に位置づける視角に学ぶべき点が多いですが、深みはありません。資本主義・資本制分析の諸潮流の目配りが不十分と感じますし、現在世界を覆っている新自由主義批判の諸相が貧弱に思います。問題意識の枝葉が削がれすぎて、当時読んだ本が数行で片付けられてしまうのも、痛快さと心持の悪さのアンビバレントな感情を抱いてしまいます。
 廣松の事的世界観を、物理のアナロジーで立論する面白さを感じたものの、だから実践的にどうなのと思ったり、将来展望を語る中でブロック経済を主張するなど割と陳腐なことを主張するなと感じたりして、次第に興味を失ってしまったのを思い出します。理論・論理の巧緻化のレベルと、現状分析の側面は一般に乖離していると感じたものでした。
 思想の流行・ファッションといったものがあって、問題の立て方や問題の所在を深く探求しない日本人のだめさ加減も感じます。
 本の最後には、長期化する安倍政権に至る概観があり、そこが最も興味を引かれました。ただし、分量や深さも日曜の新聞の長めの時評と同じ程度です。著者を存じ上げませんが、この方には理論的位置づけよりも現状分析のほうが向いているのでは?と感じました。
 はたして、若い人はこの思想史概観に、アクチャルなものを受け取るのだろうか?
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書斎人
5つ星のうち4.0 戦後社会科学の鳥観図
2020年9月22日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本
 戦後における内外の社会科学の思想の便利な鳥観図です。
 我が国の理論状況については丸山真男の思想をベンチマークにしてそれとの関係で要領よく整理され、欧米の状況も我が国での議論との関係で要領よくまとめられています。
 この本で取り上げられた著作をこれから読んでいく人には便利な鳥観図でお勧めです。
 それにしても、昭和の時代までは丸山をはじめとして社会科学の思想が論壇に大きな影響力をもっていたのが冷戦が終結したあたりから沈滞化しはじめ、今日ではすっかり影響力がなくなっていることを感じます。著者にはその原因について分析した著書を期待したいと思います。
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