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元慰安婦たちは置き去りのまま…【韓国・少女像設置問題】で問われる日本の外交手腕

元慰安婦たちは置き去りのまま…【韓国・少女像設置問題】で問われる日本の外交手腕

2017.01.12 00:07
連載
江川紹子の「事件ウオッチ」第70回
元慰安婦たちは置き去りのまま…【韓国・少女像設置問題】で問われる日本の外交手腕
文=江川紹子/ジャーナリスト
【この記事のキーワード】江川紹子, 慰安婦問題, 日韓




自由民主党HPより
 慰安婦問題をめぐって、日韓関係がまた悪化している。韓国は朴槿恵大統領の職務が停止されて司令塔がいないし、これまで仲介役を果たしていた米国も次期政権の対応は分からない。肝腎の元慰安婦たちが置き去りにされ、両国の人々のナショナルプライドが前面に出て、感情的な対立が長期にわたってこじれる懸念もある。
慰安婦問題をめぐる韓国メディアへの疑問
 一昨年末に日韓合意にこぎ着けたのは、核開発を進める北朝鮮の脅威に対して、日米韓の連携を強化するという安全保障上の要請もあり、日韓国交正常化50周年の年末を控え、日韓双方の妥協の産物ではあった。ただ、そこで大切だったのは、元慰安婦の方たちが存命中に和解に至ることだった。彼女たちの心の傷が癒やされ、少しでも豊かで幸せな晩年を過ごしてもらおうというのが、合意に向けての大義であったはずだ。

 そのために、韓国で「和解・癒やし財団」が立ち上げられ、当事者の意向を尋ね、日本からの10億円を元に、元慰安婦や遺族に慰労金が渡されることになった。存命の元慰安婦の方々の7割を超える34人が慰労金を受け取ることになったのは、生きているうちに解決したいという当事者の思いと、現地の財団の担当者たちの誠実な対応がもたらした結果だろう。

 ところが、韓国のメディアは、その事実をほとんど報じていない、という。実際、韓国の有力新聞の日本語版サイトをチェックしてみても、そうした記事は掲載されていない。それぞれのメディアに、独自の主張があるのは構わないが、大事な事実を伝えないというのは、ジャーナリズムの役割を放棄しているに等しいのではないか。

 アジア女性基金の償い事業が行われた時も、日本政府からの拠出金で行う事業もあり、総理大臣からのお詫びの手紙も渡されるなどの事実を、韓国メディアはきちんと伝えていなかった、と聞く。「日本政府の責任回避のごまかし」として激しい拒否反応を示すNGOに同調したメディアが発信する情報は、韓国世論に大きな影響を与えただろう。償い金を受け取った女性たちは、「金に目がくらんで心を売った者」として批難されることになった。

 それでも、さまざまな人たちの努力によって、韓国政府が認めた被害者207人の29%に当たる60人が、償い金などを受け取った。ただし、彼女たちが韓国国内で攻撃されるのを防ぐために、その事実はかたく秘匿され、明らかにされたのはつい2年前のことだ。

 国家賠償という形でなければならぬ、という方々の主張は理解できる。けれども、だからといって償いを受け入れるという道を選んだ人を批難するのは筋違いだ。日本軍の慰安婦として被害に遭った女性たちは、今度は祖国の同胞たちからの激しいバッシングで貶められることになったのだ。なんと残酷なことだろう。

 今回も、慰労金を受け取った元慰安婦たちは、肩身の狭い思いをしているのではないか。人間としての尊厳を損なわれた被害者が、再び傷つけられる事態にならないようにと願ってやまない。

 確かに、合意に反発し、あくまで日本の国家賠償を求める元慰安婦もいる。ただ、釜山の日本領事館の前に新たな少女像を設置して気勢を上げている人たちは、自分たちの行為によって、現実が彼女たちの願う方向に動いていくと、本気で思っているのだろうか。その真の目的が、本当に元慰安婦たちの救済なのか、疑問に感じる。むしろ、自分たちの運動を永続させるのが目的化しているのではないか。

反日運動を勢いづかせた安倍晋三政権
 だから、釜山の少女像に日本政府が反発し、在ソウル大使や在釜山領事を一時帰国させたり、緊急時に通過を融通しあう通貨スワップ協定の再開に向けた協議の中断、日韓ハイレベル経済協議の延期などの報復措置をとったことは、彼ら彼女らにとっては、願ったりかなったりの展開だろう。なぜなら、韓国国民が反発し、反日意識が強まれば、それはすなわち自分たちへの追い風になるからだ。今の展開に、ちょっとした勝利感すら覚えているのではないか。

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ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2017/01/post_17697.html?fbclid=IwAR2or6I0AXf-EYjm2nhgaIfsDDNxk1wyEjxqWaYcQkjubrMSsx0C2OoN4JE
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 韓国側が、こうした市民の動きを抑えられないことについて、日本の政府は苛立ちを露わにしている。安倍首相は、日本側はすでに10億円を支払っており「次は韓国がしっかりと誠意を示さなければならない」と強調した。この発言に、韓国の人たちは札束で頬を張られたような屈辱を感じているらしい。比較的冷静な対応をしていた韓国紙までもが、強い日本批判に転じた。ポスト朴政権の政治闘争の中、韓国野党も国民のナショナルプライドを煽って、「安倍に10億円を突き返そう」と叫ぶ。このような状況は、元慰安婦たちの心の傷の回復や安らぎはともかく、反日運動を繰り広げる人には、もってこいの展開だろう。
 日本のメディアは、日本政府の対応の正当性を伝えるが、「正当」であっても逆効果になるのでは、外交としては成功とはいえない。何も日本の側から、これ以上反日運動を勢いづかせる燃料をさらに投下する必要はないのではないか。

 ではどうすればいいのか。

 私は、こういう状況だからこそ、日本はあくまでも合意を大切にし、元慰安婦の方たちへの慰藉(いしゃ)を重視する姿勢を示し続けることだと思う。

「名誉ある地位」を守るためには
 合意には、次のような文言がある。

〈韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。〉

 日本はお金を出して終わり、ではない。すべての元慰安婦の名誉・尊厳の回復や癒やしのための事業は、「日韓両政府が協力し」て行う義務を負っている。

 だからこそ、本当は今のような事態になる前に、「和解・癒やし財団」の求めに応じて、安倍首相が元慰安婦の方々にお詫びの手紙を出せばよかったと思う。そうすれば、被害者たちの心の癒やしにつながるだけでなく、過去に向き合う日本の誠実さを対外的にアピールすることにもなったろう。

 ところが、昨年10月の衆院予算委員会で安倍首相は「毛頭考えていない」と、けんもほろろに突っぱねた。返す返すも残念だ。カネを払ったんだから、負の歴史とこれ以上向き合う必要がないといわんばかりの態度は、安倍首相の人間性だけでなく、日本の国柄をも傷つける。

 せめて、財団と連携して、元慰安婦のために、今後もできることは地道にやっていくという姿勢はきちんと示してほしい。

 軍人が直接、力ずくで女性を誘拐するような「強制連行」はなかったとしても、韓国に限らず、心ならずも慰安婦にされた女性たちが心身を傷つけられたことについて、日本軍の関与や責任は否定しようもない。

 大戦中、海軍主計士官だった中曽根康弘元首相も、自身の手記の中で、インドネシアの設営部隊の主計長だった頃の経験を、こう書いている。

〈三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。〉

 今回の合意にも、こう書かれている。

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2017/01/post_17697_2.html
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〈当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。〉
 ところが、日本の中では、元慰安婦の方々を卑しめたり、日本側には何の問題もなかったかのような言動も飛び交う。合意を大事にするのであれば、日本側から元慰安婦の尊厳を傷つけるような言動は断じて慎むべきだし、安倍首相にはそのような呼びかけをしてもらいたい。

 それは、国際社会の中で日本が「名誉ある地位」(日本国憲法前文より)を守っていくためでもある。

 日本側が対抗措置を取り、外交問題となったことで、今回の出来事は海外の国々でも報じられた。真珠湾訪問で、せっかく「和解の力」をアピールしたばかりなのに、アジアの国とはまだまだ和解に至っていないことが、国際社会に印象づけられてしまった。

 また慰安婦問題は、国連の人権委員会や女子差別撤廃委員会などでも取り上げられてきた。国際社会では、韓国政府よりもむしろ日韓のNGOなど、民間の組織や個人が問題提起をしてきたと言えるだろう。確かに、日韓合意で、両国政府は「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」とあるが、これはあくまで「政府」の約束。民間の団体や個人が、それに縛られることはない。

 そうした国際社会の中にあって、「名誉ある地位」を守っていくには、まずは過去の問題に対する日本の誠実な姿勢を示し、多くの人々の心に印象づけることではないか。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2017/01/post_17697_3.html
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