tokumeikibou
5つ星のうち5.0 読書感想 中村哲『医は国境を越えて』、石風社、1999年12月
2002年1月9日に日本でレビュー済み
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中村さんは“テロ対策特別法”の審議の時に、国会の場に出ていって、次のように述べていた。
「政治的なことは言いたくありませんが、とにかくアフガニスタンの正確な
情報を知ってください。政治家の方たちは、それから判断してください。
干ばつによって農業生産力の九割が打撃を受けているところへ報復攻撃が始
まれば、100万人単位の人が死に、衆人環視の下でホロコーストと同じ状態
を生むことは間違いありません。」
僕らはテレビを見ていても、数百万人のひとが干ばつとの相乗効果で死んでいくさまというのは、見ていない。正直言って、想像を絶する。誤爆で死に、流れ弾で死に、地雷で死に、拷問で死に、公開処刑で死に、飢えて死に、病気で死に……
中村さんもアフガニスタンへ診療へ行ったとき、落馬で命を落としかけた。その瞬間、「死が優しく思えた」という。中村さんでさえ時には死を優しく感じるほどに、現地の状況には難しいものがある。内戦やクーデターが表面だとすれば、内側にはより細かな権力や金をめぐる争いがある。アフガニスタン難民とパキスタン人の立場、その中でもさらに諸部族にわかれてお互いに対立する。
しかし彼の頭を占め続けるのは、患者の命だけ。「忘れっぽく、お人好しの日本人」として、なるべく非「政治的」であろうとする。しかし、患者の利益のためだけ思っても、そこでの現実である「政治」を避けるわけにはいかない。かえって彼はそこにどっぷり身を浸し、飲み込まれざるをえない。
しかし、中村さんは、裏取引や汚職だけが政治ではないということを表現していると僕には思える。現に彼は、こういう本を書いたり講演をしたりして、僕らの心を深く揺さぶる。それは国会議員の数には直接に反映されないけれど、僕らが持っている「世論」の本当の内容とは、ほとんど芸術活動のような、こういう内容なんじゃないだろうか。
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