2020-10-27

映画と宗教文化 - 日本

映画と宗教文化 - 日本



目次
あなたへ
アブラクサスの祭
ある朝スウプは
遺体―明日への十日間
おー!まい!ごっど!神様からの贈り物
おくりびと
お葬式
親分はイエス様
カインの末裔
カナリア
神様のカルテ
奇談
劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル
ゲゲゲの鬼太郎
呉清源 極みの棋譜
里見八犬伝
色即ぜねれいしょん
少年H
スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ
救いたい
ステキな金縛り
聖☆おにいさん
11'9"01/セプテンバー11
禅 ZEN
太陽
旅の重さ
ディスタンス
沈黙―サイレンス―
終の信託
憑神
天地明察
西の魔女が死んだ
母―小林多喜二の母の物語
ファンシダンス
筆子・その愛 天使のピアノ
不惑のアダージョ
ボクは坊さん。
マルタイの女
曼陀羅
水の声を聞く
MON-ZEN
靖国 YASUKUNI
ラッシュライフ
リング

あなたへ

2012年、日本、監督:降旗康男、舞台となる地域:日本

妻を亡くした主人公は、妻の遺言にしたがい、北陸から妻の故郷である長崎の港に向かい、漁船に乗って沖に出て、海に妻の遺骨を撒こうとする。道中でさまざまな出会いを経験しながら、彼は散骨の瞬間に、生前には語られることのなかった妻の本当の思いを理解する。海への散骨が物語の鍵として重要な役割を果たしている。




アブラクサスの祭

2010年、日本、監督:加藤直輝、舞台となる地域:日本

主人公の浄念は、うつ病と闘いながら法事などを手伝っている臨済宗の僧侶である。若いころロックミュージシャンを目指していたこともあって、音楽への思いが断ち切れない。そんな彼に周囲は振り回されるが、町でロックのライブを行うことを決意してから、彼の生活は充実したものとなっていく。「お坊さんだって、悩みはある!」という文句に代表されるように、作品を通して僧侶という存在を身近なものに感じることができるだろう。




ある朝スウプは

2004年、日本、監督:高橋泉、舞台となる地域:日本

東京の片隅のアパートに暮らす男女2人の生活をまるで定点観測のような冷静な視点で追う。パニック障害と診断された男は新興宗教にはまり、恋人の女は制止を試みるも失敗を重ねる。宗教的世界観で生きる男と世俗の論理で過ごす女。2人の世界観のずれが淡々と描かれている。




遺体―明日への十日間

2013年、日本、監督:君塚良一、舞台となる地域:日本

2011年3月11日の東日本大震災で多くの死者が出たことにより、被災地では多数の遺体をどうしたらいいのか、深刻な問題が生じた。こうした実情を岩手県釜石市の遺体安置所での取材を基に映画化した作品。安置所で遺体と向き合う人々の様子を描く。




おー!まい!ごっど!神様からの贈り物

2013年、日本、監督:六車俊治、舞台となる地域:日本

自殺の巻き添えで死んでしまった主人公は、天国と地獄の境界で天国に行くための課題をゴンゲン様から与えられる。それは、現世に戻って4人の女性を立派なレディーにするというもの。自称「天界のドラァグクイーン」ウメチャンの力をかりて、主人公はこの難局に挑む。ドラァグクイーンとダンサーたちが歌って踊る賑やかな「あの世」が描かれたミュージカル映画。




おくりびと

2008年、日本、監督:滝田洋二郎、舞台となる地域:日本

仕事を辞めて故郷の山形県庄内地方に帰り、納棺を行う会社に就職したところから物語は始まる。遺体を扱うという仕事を理解してくれない家族・友人との葛藤や、自身の知人・家族を納棺する際の戸惑いなどを通して、納棺夫として成長していく過程が描かれている。これまであまり取り上げられなかった職業に光を当てた一方で、宗教者は一貫して背景となっている。




お葬式

1984年、日本、監督:伊丹十三、舞台となる地域:日本

初めての葬儀を執り行うことになり戸惑っている喪主を主人公に、「お葬式」をめぐっての人間関係や人情などがコメディタッチに描かれている。葬儀において、死者を彼岸に送る「直接」の役である僧侶はもちろん登場するが、本作では黒子ともいえる葬儀屋に強く焦点が当てられ、現代における葬儀事情・葬儀トラブルの基などが反映されている。




親分はイエス様

2000年、日本/韓国、監督:斎藤耕一、舞台となる国:日本韓国

対立する2つの暴力団にそれぞれ所属する2人のヤクザの妻はともに韓国人。2人の韓国人妻は教会で出会い互いに助け合うことになる。その後、二人の夫は組織を追われ、一人はキリスト教の信仰に目覚め宣教をおこなうようになるが、そこにもう一人のヤクザが立ちはだかった。実話をもとにした本作では、ニューカマーのコミュニティとしての教会や、キリスト教大国としての韓国が垣間見れる。




カインの末裔

2007年、日本、監督:奥秀太郎、舞台となる地域:日本

母を殺した罪で服役していた少年院を出て、電子部品を組み立てる小さな工場で働くようになった主人公は、部屋と工場を行き来するだけの平凡な日々をおくっ ていた。しかし、新興の宗教団体を率いる牧師からリモコン型拳銃の作成を命じられ、それを引き受けたことから彼の日常は大きく動き出し、醜さや暴力、不条 理に満ちた世界へといざなわれていくこととなる。一貫して不気味なものとして描かれる教祖や新宗教団体の姿には、オウム事件以降の日本の「新興宗教」に対 するイメージが反映されているとも考えられる。




カナリア

2004年、日本、監督:塩田 明彦 舞台となる地域:日本

オウム真理教とそれが起こした事件をモデルに、いわゆる「二世信者」(教団に自発的に入会した信者の子どもで、ときとして内面的に教団の教えに親しんでいる信者)を主人公にした作品。ある日、カルト教団「ニルヴァーナ」は無差別テロ殺人事件を起こす。主人公光一と妹朝子の母は特別指名手配犯となり、兄妹はバラバラに保護される。光一は施設を抜け出し朝子を取り戻しに行くが、その道中、元信者や朝子を保護している祖父たちと出会い、冷徹な現実を目の前にする。世俗の倫理と宗教の教義が乖離する中で、どのように若者が生きようとするかの葛藤が描かれている。




神様のカルテ

2011年、日本、監督:深川栄洋、舞台となる地域:日本

地域病院に勤務する一人の男性医師が主人公。大学病院の教授から見込まれた彼は、大学病院の医局に移るか地域の小さな病院に残るかの選択を迫られる。そんな中、余命わずかと宣告され大学病院から見放された一人の癌患者と出会うことによって、彼の心境に変化が生じる。主人公が妻とともに小さな神社の前で手を合わせるシーンがあるが、こうした描写は多くの日本人にとって自然な「神様」の在り方として捉えられることだろう。




奇談

2005年、日本、監督:小松隆志、舞台となる地域:日本

主人公の佐伯里見は、幼いころ預けられていた東北の隠れキリシタンの村・渡戸村で神隠しにあった経験をもつ。しかし、この事件に関する彼女の記憶は曖昧な ものであった。当時何が起こったのかを知るために彼女は渡戸村を訪れ、そこで知り合った考古学者・稗田礼二郎とともに村に伝わる神秘に触れることとなる。 キリスト教や日本の民俗信仰などさまざまな宗教的要素が絡み合いながら物語は進んでいく。




劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル

2010年、日本、監督:堤 幸彦、舞台となる地域:日本

死亡した霊媒師の後継者となる最強の霊能力者を選出するため、人里離れたとある村で「霊能力者バトルロワイヤル」が開催されることとなる。主人公の山田奈 緒子と上田次郎は、霊能者たちの中に紛れ込み彼らのインチキを暴こうとするが、次々と候補者が殺害される事態に巻き込まれていく。作品中に描かれている霊 能者たちの姿には、日本人が霊能者にもつイメージが少なからず反映されているといえよう。




ゲゲゲの鬼太郎

2007年、日本、監督:本木 克英、舞台となる地域:日本

歴史上の人物の怨念が閉じ込められた「妖怪石」をめぐって繰り広げられる鬼太郎と仲間の妖怪たちの物語。水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」は何度もアニメ化 や実写化が繰り返されており、妖怪と人間との交流を描く彼の作品が高い人気を保持していることがわかる。こうした作品を通して、日本の民俗信仰が再活性化 されているとも考えられる。




呉清源 極みの棋譜

2007年、日本、監督:ティエン・チュアンチュアン、舞台となる地域:日本中国

昭和の天才棋士とうたわれた呉清源の生涯を描く作品。中国で生まれた呉は、その囲碁の才能を見込まれて日本に帰化するが、日中戦争や太平洋戦争といった波乱の時代を生きることとなる。彼は、当時メディアを騒がしていた新宗教、璽宇に入会し、それ以前には中国で諸宗教間の連帯・調和を目指す紅卍会に入会していた。勝ち続けることが求められる彼の棋士人生において、宗教がいかなる役割を果たしてきたのかを考えてみると興味深い。




里見八犬伝

1983年、日本、監督:深作 欣二、舞台となる地域:日本

静姫は、かつて城を滅ぼされた恨みによって怨霊となった玉梓に追われていた。彼女は、玉梓や他の怨霊を討つために、各地に散らばった仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の玉をもつ8人の犬士を集める旅に出る。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を大幅に翻案したストーリーの中には、怨霊、もののけ、異種婚、生まれ変わりなどの民俗信仰的要素が数多く盛り込まれている。また、それぞれの玉の名からも明らかなように儒教的要素も色濃く反映されている。




色即ぜねれいしょん

2009年、日本、監督:田口トモロヲ、舞台となる地域:日本

仏教系男子高校に通う、さえない主人公が音楽と旅と恋を通して成長していく様を描く青春映画。講堂にある法然像から浄土宗系の高校であることがわかるが、 宗教は中心的な主題になっていない。ただ、授業中に教師が色即是空の意味を「今を生きるということだ」と解説したことが、主人公の行動に大きな影響を与え ることとなる。




少年H

2012年、日本、監督:降旗康男、舞台となる地域:日本

ベストセラーとなった妹尾河童の自伝的小説を映画化したもの。第二次世界大戦前から敗戦直後までを生きた家族の姿が描かれる。主人公となる少年H(本名である肇のイニシャル)の母は熱心なクリスチャンであった。戦時中、キリスト教徒を母に持つ一家がどのような扱いを経験してきたかを垣間見ることができる。




スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ

2007年、日本、監督:三池崇史、舞台となる地域:日本

源氏と平家というギャングたちの抗争を西部劇風に描いた日本映画。劇中に登場する町はずれの鳥居は、物語が進むにつれ白にも赤にも塗り替えられ、また死体 がぶら下げられたりもする。この鳥居に死体がぶら下がっているというシーンがポスターに使われたことから、神社関係者の一部が抗議をするという事態が起 こった。ストーリー自体に宗教はあまり関係していないが、鳥居の表象をめぐるこうした議論は興味深いものだろう。




救いたい

2014年、日本、監督:神山征二郎、舞台となる地域:日本

東日本大震災の被災地を舞台に、震災で大切な人を失った人々の苦しみと復興への勇気を描く。中心となるのは麻酔科医の川島隆子と夫で同じく医師の貞一。貞一は震災後、被災地に診療所を立上げ、隆子もそこで悲しみを抱えながら生きる人々と向き合っていく。地元の祭りの復活が、復興への希望として象徴的に描かれる。




ステキな金縛り

2011年、日本、監督:三谷幸喜、舞台となる地域:日本

妻を殺した犯人として起訴された男にはアリバイを証明するたった一人の証人がいたが、それは落ち武者の幽霊であった。事件当日、この幽霊が被告人を金縛り状態にしていたために、彼には犯行が不可能であったのだ。主人公の女性弁護士はこの幽霊を法廷に立たせるが、幽霊の姿を見ることができるのは一部の人のみに限れらていた。死者との交流がコミカルに描かれている。




聖☆おにいさん

2013年、日本、監督:高雄統子、舞台となる地域:日本

中村光原作の人気コミックを映画化した作品。「休暇をとった」ブッダとイエスは、東京の立川市で同居し、買い物をしたり遊園地に行ったりと地域の人びとに混ざって日常生活を楽しむ。いろいろな場面で、キリスト教や仏教にかかわる観念や言葉がギャグへと転化して登場する。




11'9"01/セプテンバー11

2002年、フランス、監督:(11ヵ国を代表する11人の監督)、舞台となる地域:アメリカイギリス日本中東周辺

2001年9月11日の同時多発テロをテーマに、11人の著名な映画監督の「11分9秒」の作品をつなげたオムニバス映画。米国、英国、日本、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、メキシコ、フランス、イスラエル、イラン、インド、エジプト、ブルキナファソというそれぞれの国の監督が、独自の視点から9.11を描く。9.11直後、多くのメディアでは米国政府の主張が大きく取り上げられたが、世界中ではそれとは異なる多様な解釈、反応、思いが存在していたことがわかる。




禅 ZEN

2009年、日本、監督:高橋伴明、舞台となる地域:日本

日本曹洞宗の開祖である道元の生涯を描く。8歳で母を亡くした道元は、24歳で入宋し、そこで身心脱落という悟りの境地を体験する。日本に帰った道元は、旧勢力である比叡山から攻撃を受けるが、越前に大仏寺(のちの永平寺)を建立して修行をはじめる。本作のみによって道元の一生や禅について理解することは到底不可能であるが、さらなる学びの為の一つのステップになるだろう。




太陽

2005年、ロシア/イタリア/フランス、監督:アレクサンドル・ソクーロフ、舞台となる地域:日本

1945年8月の敗戦前後の昭和天皇の思いや行動などを描く。一般的に1946年の人間宣言によって天皇は現人神とはみなされなくなったとされている。家族を愛し、苦悩する一人の「人間としての天皇ヒロヒト」が、降伏後、マッカーサー司令官との会談や皇后との再会を経て、いかなる心持で人間宣言に至ったのかという過程に焦点があてられている。




旅の重さ

1972年、日本、監督:斎藤耕一、舞台となる地域:日本

16歳の「わたし」は、母と愛人が暮らす家を出て四国遍路の旅に出る。旅の途中でさまざまな出会いを経験し、その中で旅の重さをかみしていく。自分の性と生に向き合うことによって「わたし」は大人へと成長し、母を次第に理解し始める。弘法大師空海が修行しつつ開創したとされる四国遍路であるが、本作にみられるように、現代では宗教的目的以外でもさまざまな動機で人々が訪れている。日常からの分離、非日常の経験、そして日常への回帰という巡礼のもつ性格がよくあらわれている作品であるといえる。




ディスタンス

2001年、日本、監督:是枝裕和、舞台となる地域:日本

カルト教団「真理の方舟」が水道水にウィルスを混入し、多くの死傷者が出るという事件が起こる。実行犯たちは教団により殺害され、教祖も自殺。この時の「実行犯たちの遺族」たちと元信者の一人が再会し、互いに語り合いながら過去に向き合っていく過程が描かれる。加害者でありながら被害者でもある「実行犯の遺族」の複雑な心情を扱っている。1995年に起こったオウム真理教による「地下鉄サリン事件」をモチーフとしているのは明らかである。




沈黙―サイレンス―

2016年、アメリカ、監督:マーティン・スコセッシ、舞台となる地域:日本

遠藤周作の『沈黙』を映画化した作品。禁教期の潜伏キリシタンとその信仰を題材にしている。ポルトガル人宣教師のロドリゴとガルペは、棄教したとされる師を探すため、マカオで出会ったキチジローという日本人の案内で日本へ渡る。たどり着いた長崎で彼らは厳しい弾圧を目の当たりにし、やがてロドリゴ自身もキチジローの裏切りにより捕えられる。宣教師たちの苦悩や葛藤を通して、信仰の根源を問いかける作品。

【世界遺産長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産が舞台となっている。】




終の信託

2012年、日本、監督:周防正行、舞台となる地域:日本

不倫関係にあった同僚の医師に捨てられた女性医師の折井綾乃は、一人の男性患者江木との出会いによってその傷ついた心を癒していく。しかし、喘息を患っていた江木の病状は悪化。「最期は早く楽に」という江木の願いどおり、彼女は延命治療の中止する。その後、彼女の判断は殺人罪として検察によって激しく追及されることとなる。生命倫理の問題でもあり、また法的問題でもある尊厳死を軸に物語が展開されている。




憑神

2007年、日本、監督:降旗康男、舞台となる地域:日本

主人公の彦四郎が、江戸向島の有名な「三圍稲荷」と間違えて拝んだ「三巡稲荷」は、貧乏神・疫病神・死神という不幸の神々を招く社であった。神々がユーモラスな姿で次々と彦四郎のもとにやってきて、不幸をもたらしはじめる。そこで彦四郎は、修験の修行を始めた小文吾らとともに、祟りをよそへと振り替えようと試みる。作品中で描かれる神々と人間との近しい交流・交渉には、日本の民俗宗教的思考があらわれているといえるだろう。




天地明察

2012年、日本、監督:滝田洋二郎 、舞台となる地域:日本

江戸時代に貞享歴を考案した渋川春海(安井算哲)をモデルとして、彼が暦を完成させていく姿を描く。算哲は垂加神道の創始者である山崎闇斎を師としていたが、その算術と天体観測の才を見込まれて、全国で北極星の高さを測るという任務を命じられる。本編では脇役にすぎないものの、主人公の師である山崎闇斎の存在は日本の思想・宗教史を考える上で重要であるといえる。




西の魔女が死んだ

2008年、日本、監督:長崎俊一、舞台となる地域:日本

中学生のときに周囲と馴染めず不登校になったことをきっかけに、山奥にある、イギリス人の祖母の家に預けられることになった主人公のまい。感受性が強く「扱いにくい子」であることを気にし、生きづらさを抱えていたまいは、自分が魔女の血筋を引いていると聞き、祖母に手ほどきを受けながら「魔女修行」を行うことになる。実はその「魔女修行」とは、まいが思い描いていたようなものではなく、規則正しい生活や、「何事も自分で決める力」を持つなどの基本的なことだったが、家事や畑仕事を手伝いながら自然と触れ合う生活をするなかで、まいは心身ともに健康を取り戻していく。「魔女」の教えにならい自分の意思で祖母との生活を終わらせることを決意したまいは、ある出来事をきっかけに祖母と仲違いしたまま祖母の家を去ることになる。ファンタジー小説に出てくるような「魔女」の姿はないものの、人の死や魂をめぐる語りは、祖母と主人公をつなぐ物語の中核にもなっている。




母―小林多喜二の母の物語

2017年、日本、監督:山田火砂子 、舞台となる地域:日本

『蟹工船』で知られるプロレタリア文学作家、小林多喜二の母・セキの半生を描いた三浦綾子の小説『母』が原作となっている。セキは貧しい家の出自でありながらも、次男多喜二を学校へ行かせ、銀行員として勤めるまで育てあげた。しかし多喜二は高給取りでありながらも、貧しい人の暮らしに目を向け、反戦運動や労働運動、小説の執筆活動へとその軸足を移していく。多喜二の小説は治安維持法下で危険思想とみなされ、多喜二は特高警察の拷問によって29歳の若さで亡くなった。その折、セキは教会に誘われイエスの話を聞く。多喜二が悪いことをしていないと信じるセキは、何も悪いことをしていないのに処刑されたイエスに息子の姿を重ね合わせる。息子の死に直面した母の姿がキリスト教の信仰との関わりのなかで描かれる。




ファンシダンス

1989年、日本、監督:周防正行、舞台となる地域:日本

実家の寺を継ぐためにロックバンドのボーカルをやめ、宗派の本山に上ることになった主人公(陽平)の修行の日々を描くコメディ映画。陽平は、坐禅のみならず日常の作法が徹底的に叩き込まれる厳しい修行生活の中で、さまざまなトラブルに巻き込まれていく。物語の舞台は架空の禅寺となっているが、曹洞宗の大本山永平寺がそのモデルである。主人公をはじめとした若き未来の僧侶たちの苦悩が描かれている点でも興味深い。




筆子・その愛 天使のピアノ

2007年、日本、監督:山田火砂子、舞台となる地域:日本

明治時代、日本初の知的障害者施設の設立に尽力し、自らの子どもの知的障害とも向き合った石井筆子の生涯を描く。作品中ではそれほど強調されてはいないが、筆子とその夫の亮一はともにキリスト教徒(日本聖公会)であった。短時間ながらも筆子が子どものころに目撃したキリシタン弾圧の様子も描かれている。また、社会福祉的な活動に心血を注ぐ筆子の姿勢も彼女の信仰と無関係ではないだろう。




不惑のアダージョ

2009年、日本、監督:井上都紀、舞台となる地域:日本

一人の日本の修道女(シスター)を主人公にした作品。魅力的なバレエダンサーとの出会いや自分に付きまとう男性の存在が、人より早く更年期にさしかかった彼女の心身を苦しめ、迷わせていく。シスターをモデルとしながらも、宗教的な要素はあまり多くなく、むしろその苦悩する姿は女性一般に共通するものである。




ボクは坊さん。

2015年、日本、監督:真壁幸紀、舞台となる地域:日本

父が病に倒れたことを機に、実家である寺院を継ぐ決意をした白方光円の新米住職としての奮闘記を描いている。原作は四国八十八か所の第57番札所、永福寺の住職白川密成氏が『ほぼ日刊イトイ新聞』で連載していた記事をまとめた『ボクは坊さん。』(ミシマ社、2010年)である。書店員からいきなり住職になった光円は、父の葬儀や幼馴染の結婚式などを経て住職としての経験を積みつつも、幼馴染の引きこもりや出産、病といった個人的な問題にも関わっていく。葬儀や結婚式といった人生儀礼のみならず、生や死といった普遍的なテーマや、引きこもりといった問題にも関わりながら、弘法大師の教えを日々の暮らしのなかで解釈、実践し、成長する姿がコミカルに描かれている。




マルタイの女

1997年、日本、監督:伊丹十三、舞台となる地域:日本

弁護士夫婦の殺人現場と犯人を目撃してしまった女優のビワコは、事件を主導していた新宗教教団「真理の羊」に命を狙われることとになる。彼女の護衛のため 派遣された二人の刑事が、教団の執拗な追跡から彼女を守り、事件の真実を証言すると宣言した彼女を法廷へと送り出すまでを描く。本作公開の2年前に起こっ たオウム真理教による一連の事件に着想を得て作成された作品である。




曼陀羅

1971年、日本、監督:実相寺昭雄、舞台となる地域:日本

さまざまな事情から日常生活を離れ、「ユートピア」にやってきた人々。山奥にある「ユートピア」では、農業の単純生産、エロティシズムの追及という理想を掲げて、巫女を中心とした共同生活が行われていた。農業中心の土着回帰やユートピア型コミューンが流行した当時の社会状況を背景としている。




水の声を聞く

2014年、日本、監督:山本政志、舞台となる地域:日本

在日韓国人のミンジョンは親友の美奈に誘われて、悩みを抱える人たちの相談に乗る巫女的な祖語とをアルバイト感覚でやっていた。韓国語で水槽に語りかけ、そこから得た答えを依頼者に告げる。それを繰り返しているうちに、信者たちが生まれ、ミジョンを教祖として「真教・神の水」が立ちあげられる。ミジョンも次第に「祈り」に目覚め始める。詐欺まがいの勧誘や金の問題など、宗教にまつわる負のテーマも描かれる。




MON-ZEN

1999年、ドイツ、監督:ドーリス・デリエ、舞台となる地域:日本

妻に逃げられた兄と東洋宗教マニアの弟というドイツ人兄弟が日本で繰り広げる珍道中と彼らの禅寺での修行をコミカルに描く。撮影は実際に曹洞宗の大本山總持寺祖院(石川県輪島市)で行われており、修行の様子を垣間見ることが出来る。また、海外の人々が抱く「禅」や「日本」に対するイメージがうかがえる点でも興味深い。




靖国 YASUKUNI

2007年、日本/中国、監督:李 纓、舞台となる地域:日本

2007年の公開時には一部の上映予定館に右翼の街宣車が押し掛けたことから、上映予定の自粛が広がった。一時は「社会問題」として取り沙汰されたが、無事公開されてからは騒動は急速に収束したという。内容もさることながら本作をめぐるこうした動きにも「靖国」をめぐる緊張を見て取ることができる。




ラッシュライフ

2009年、日本、監督:真利子哲也/遠山智子/野原位/西野真伊、舞台となる地域:日本

孤高の泥棒、カルト教団の教祖を熱心に信奉する青年、不倫相手と一緒になるために夫を殺害しようとするカウンセラー、失業中のサラリーマンという4人の登 場人物の人生が交差していく様子を描く。作品中では、新宗教団体とその信者である青年の行動は異常でグロテスクなものとして描かれている。オウム真理教に よる一連の事件の影響により形成されたカルト宗教イメージが投影されているといえるかもしれない。




リング

1998年、日本、監督:中田秀夫、舞台となる地域:日本

見ると1週間後に死ぬという「呪いのビデオ」をめぐって繰り広げられるホラー映画。呪いの発端は透視能力をもつ志津子の娘、貞子の不幸な死にあった。志津子の能力を実証しようと試みる心理学者の存在や超能力の公開実験といったモチーフは、明治43年に実際に起こった千里眼事件を下敷きにしている。

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