2020-08-09

18 論点:日朝首脳会談 - 毎日新聞

 



論点:日朝首脳会談 - 毎日新聞
論点 
日朝首脳会談


会員限定有料記事 毎日新聞2018年6月15日 東京朝刊
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 12日の米朝首脳会談でトランプ米大統領が日本人拉致問題を提起したのをきっかけに、日朝首脳会談開催の機運が高まっている。止まっていた拉致問題の時計の針は動き出すか。北朝鮮の非核化と朝鮮半島の和平、日朝の国交正常化に向けて、日本は具体的にどのような役割を果たすことが求められているか。
非核化の具体的作業必要 藪中三十二・立命館大客員教授

 米朝首脳会談は、ついこの前まで激しく言い争っていた2人の指導者がひょう変し、固く握手した映像が何より衝撃的で、新しい時代の到来を印象づけた。これで東アジアの安全保障問題が大きく動き出すかという期待、あるいは幻想を世界に抱かせるものであり、まさに「歴史的な」会談だった。


 しかし、共同声明の中身を吟味すると、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言は盛り…


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OkChu Chong

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この李柄輝・朝鮮大学校准教授の談話は読む価値あり。日本メディアがほとんど報じない「北朝鮮の論理」がわかる。


冷戦崩壊後、北朝鮮が取りうる道は2つしかなかった。日米韓との国交正常化か自主核武装か。これを踏まえるといまは平和体制の構築しか針路はないことがわかる。
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この李柄輝・朝鮮大学校准教授の談話は読む価値あり。日本メディアがほとんど報じない「北朝鮮の論理」がわかる。冷戦崩壊後、北朝鮮が取りうる道は2つしかなかった。日米韓との国交正常化か自主核武装か。これを踏まえるといまは平和体制の構築しか針路はないことがわかる。

〜本文より引用〜
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半島の平和に積極的参画を 李柄輝・朝鮮大学校准教授

 今年7月、朝鮮戦争は停戦65年を迎える。日本は、事実上、この戦争の当事国である。朝鮮戦争時、東京には米国を中心とした国連軍の司令部があり、今も国連軍後方司令部が残る。つまり、日本は、過去65年間の朝鮮半島を巡る軍事バランスの一翼にも関わってきた。だからこそ、日本には、国交正常化交渉を推進しつつ、今後の朝鮮半島の和解プロセスに積極的に参画してほしい。

 朝鮮(北朝鮮)が核開発をせざるを得なかったのは、朝鮮戦争の停戦が、核兵器を含む軍事バランスでかろうじて守られてきたに過ぎなかったからだ。停戦協定には、朝鮮半島への新たな兵器持ち込みを禁止する条文がある。ところが、1958年、早くも米国が韓国へ核兵器を配備して、以後、協定は空文化した。
 それでも停戦を維持できたのは、90年代初頭までは朝鮮に旧ソ連と中国の核の傘があったおかげだ。両国を期待できなくなると、朝鮮は東アジアで一国だけ丸裸になった。陸軍と通常兵器主体の在韓米軍はまだしも、特に米韓合同軍事演習には、戦術核を搭載可能な爆撃機などが参加してきた。朝鮮は極度の緊張を強いられて、国力を疲弊させられてきた。日本は、合同軍事演習の参加国ではないにせよ、米韓と共に朝鮮を包囲する一部分と見なされてきた。

 先日の朝米(米朝)首脳会談では、この「核を持ちたくないが、持たざるを得なかった」事情をトランプ大統領が理解したのだろう。だからこそ、トランプ氏は合同軍事演習中止を表明したのだと思われる。

 朝鮮戦争の終戦は、国連軍の解体も意味する。国連軍と日本の地位協定も、国連軍後方司令部もなくなる。米軍中心かつ日韓にまたがる軍事編成である国連軍がなくなれば、米軍の東アジア戦略と日本の自衛隊の役割にも影響が及ぶかもしれない。

 つまり、これまでの経緯と今後の両面から、日本は、朝鮮半島の平和体制構築を推進して当然なのだ。日本が独自の外交力を発揮できる場面は、必ずある。たとえば、トランプ氏が米国内の巻き返しにあって、今の動きが足踏みする可能性はあると思う。そんなとき、もっとも強くトランプ氏を支えられる他国リーダーは、安倍晋三首相ではないだろうか。

 朝鮮側へ対する不信感も分かるが、国交正常化への流れの中で解決するしかない。2002年の朝日(日朝)平壌宣言と14年のストックホルム合意に立ち戻るべきだ。

 平壌宣言は、核とミサイルについて「関係諸国の対話を促進し、問題解決を図る」とした。日本の植民地支配を合法だったと解釈できる文言も入っており、朝鮮は、国交正常化のために、歴史認識の根幹でさえ最大限の現実的な譲歩をしている。

 ストックホルム合意は、拉致問題の再調査と制裁解除をリンクさせている。圧力を最大限に強めても、元々、朝鮮は他国の対決姿勢には対決姿勢で応じてきた。対決姿勢を解くときほど、リーダーの決断が必要だ。そのための国際環境は、既に十分整ったはずである。

 米朝首脳会談は、過去70年間の経緯を踏まえれば、歴史的な第一歩だ。金正恩国務委員長は体制を温存するために、長年非難してきた「米帝」のトップと第三国で会談するというリスクを伴う交渉に歩み出た。核開発にかけた多大なコストと時間に相応する代価が米から与えられれば手放すつもりはあるとみている。核はあくまで体制温存のための手段だからだ。ただ、合意の履行段階ではさまざまな困難が予想される。金委員長は今回の合意が不可逆的だと国内に徹底できるかが焦点だ。また、トランプ大統領がCVIDにこだわり続けることが結局は北朝鮮にとってもプラスだ。日米韓など政権交代があり得る国家体制に対する北朝鮮の不信感はとてつもなく大きい。米による体制の安全保証を不可逆的に認めさせたかったはずだ。今回のあいまいな合意は、今後より大きな合意を引き出すための布石でもあり得る。

 日朝関係は米韓両国が明確に北朝鮮との対話に踏み出したのに引っ張られる形となった。北朝鮮が日本との交渉に魅力を感じなければ譲歩は引き出せないが、この数カ月でそれは下がっており、悠長に構えている余裕はない。主体的に仕掛けていかなければいけない。2014年のストックホルム合意は拉致被害者を奪還するための現実的な方策として評価された。拉致問題だけでなく日本人配偶者や残留日本人の問題などを協議するために北朝鮮が秘密警察である国家安全保衛部の幹部を委員長とする特別調査委員会を作るなど、考えられないほど踏み込んでいた。北朝鮮の大きな政策変更には首脳同士の交渉が必須であり、米朝首脳会談の流れに乗じて、安倍晋三政権と金正恩政権下で結んだストックホルム合意を再確認することが有効だ。

 ただ、一括解決にこだわると交渉が難しくなる。対話が進むことで次々と日本人が再調査により発見され帰ってくるということを継続していくことが重要だ。それにより被害者全員の帰国を目指すべきだ。核を持たない日本が北朝鮮と核・ミサイルで対等に交渉するのは難しく、米との緊密な連携が必要だ。日本としては拉致問題を含む日本人の生命を守る問題を先行させるべきだ。拉致問題を前進させ、信頼醸成を図ることで明るい未来があると示すべきだ。

 02年の日朝首脳会談は、双方本気で関係改善を目指したものだった。会談前まで日本の世論は「北朝鮮が拉致被害者を帰すわけがない」だった。今回の米朝首脳会談を巡って世論が「時間稼ぎするだけで核を放棄するわけがない」なのと似ている。一方で02年の教訓は、日朝双方が世論を見誤ったことだ。拉致被害者が全員帰ってこなかったこと、確たる証拠なしに「死亡」という不誠実な調査結果を出したことへの反発が思った以上に大きく、頓挫した。北朝鮮への不信感が強いのは当然だ。それにもかかわらず政治が動けるかどうかだ。拉致被害者家族の皆さんは何十年も待ち続け、期待を持たされ続けてきた。安倍首相には、仮に世論の反発があっても、対話により拉致被害者を奪還する道を選んでほしい。

2002年の平壌宣言

 日朝平壌宣言は2002年9月17日に北朝鮮を訪問した小泉純一郎首相(当時)と金正日(キムジョンイル)総書記(同)が署名した両国政府の合意文書。日本が過去の植民地支配に痛切な反省と心からのおわびを表明。国交正常化にあたって財産・請求権を相互に放棄し、正常化後に日本が無償資金協力などの経済協力を実施すると明記した。日本人拉致問題については「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」との表現で北朝鮮が再発防止を約束した。

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 ■人物略歴

リ・ビョンフィ

 1972年生まれ。在日朝鮮人3世。朝鮮大学校研究院前期課程修了。共著「平和と共生をめざす東アジア共通教材」、論文「金正恩第一書記の政策基調」など。専門は朝鮮現代史。

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