ご飯論法
ご飯論法(ごはんろんぽう)とは、質問に真正面から答えず、論点をずらして逃げるという論法[1]。「朝ご飯は食べたか」という質問を受けた際、「ご飯」を故意に狭い意味にとらえ、(パンを食べたにもかかわらず)「ご飯(白米)は食べていない」と答えるように[2]、質問側の意図をあえて曲解し、論点をずらし回答をはぐらかす手法である。報道によっては「ごはん論法」とされることもある[3]。
概要[編集]
2018年、法政大学教授の上西充子のTwitterへの投稿[4]がネーミングのきっかけになり、国会審議でも引用された[5][6][7]。主に安倍晋三総理大臣ら自民党関係者が国会質疑で追及をかわすために論点をずらしたり、ごまかそうとするのを揶揄したり皮肉ったりする表現としてメディアなどでも頻繁に用いられるようになり、 2018年の『現代用語の基礎知識』選 2018ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10にも選出された[2]。上西は安倍政権の答弁について「明らかなウソは言わないけど、本当のことも言わない。それでいて、ちゃんと答弁しているかのように錯覚させてしまう。国会の質疑がそんな"騙した者勝ち"のようになっている」と指摘している[8]。森島賢は、ご飯論法を「安倍晋三内閣のお家芸」「論点を外して質問に答えず、時間かせぎをする答弁」「とうてい真摯な答弁とは言えず、膿を出しきる姿勢とは逆の姿勢」と非難している[9]。ジャーナリストの池上彰は、「質問に真正面から答えず、論点をずらして逃げるという安倍政権特有の論法」としている[1]。
特徴[編集]
ご飯論法の追及かわしには、以下の特徴があるとされる。[10]
- 論点のすり替え
- はぐらかし
- 個別の事案にはお答えできない
- 話を勝手に大きくして、答弁拒否
- 過去の事実の書き換え
なお、安倍晋三が「桜を見る会」問題で追及された際、2020年1月28日に発言した「募っているが募集はしていない」、同年2月5日の「安倍事務所はホテルと『契約』ではなく『合意』した」と答弁したことについては、上西は誰が見てもおかしいとわかるのでご飯論法でさえないとしている[11]。
メディアが「ご飯論法」と指摘した例[編集]
森友学園・加計学園問題[編集]
安倍晋三[編集]
- 2018年4月11日衆議院予算委員会[12]
- 2018年5月28日衆議院予算委員会[13][14]
- 2018年5月28日衆議院予算委員会[13][15]
- 質問:「首相と理事長との面談が架空では説明がつかないことが多すぎる」
- 回答:「決定のプロセスには一点の曇りもない」
- 手法:質問に全く答えず
- 2018年5月28日衆議院予算委員会[16]
- 質問:「膿を出しきると言っていたが、もう膿は出し切ったと思うか」
- 回答:「私から指示や依頼を受けた人は、誰もいない」
- 手法:質問に全く答えず
- 2018年5月28日参議院予算委員会[17]
- 2018年9月17日[7][18]
佐川宣寿[編集]
- 2017年2月24日衆議院予算委員会[12]
- 質問:「森友学園との交渉・面会記録は残っているか」
- 回答:「確認したところ、交渉記録は廃棄した」
- 2018年3月27日証人喚問[12][19]
- 質問:「(記録は存在し)「廃棄した』は虚偽答弁だった」
- 回答:「『確認した』は、文書規則で廃棄という取り扱いを確認したということだった」
- 手法:「文書を廃棄したか」という質問に対し「確認した」と答えたにも関わらず、「文書を捨てたことを確認したと言うことではなく、文書を捨てることになっているというルールを確認した」という意味だと答えていたと釈明。「確認する」の内容を意図的にすり替えて誤解させている。
柳瀬唯夫[編集]
- 2017年7月24日衆議院予算委員会[12]
- 質問:「(加計学園問題で)今治市職員と会ったか」
- 回答:「職員と会った記憶はない」
- 2018年5月10日参考人招致[12]
- 質問:「『加計学園関係者と会った』と言わなかったのは不誠実だ」
- 回答:「今治市職員に会ったかと聞かれた。一つ一つの質問に答え、全体が見えなくなった」
「桜を見る会」問題[編集]
安倍晋三[編集]
- 2019年11月8日参議院予算委員会[20][21]
- 質問:「後援会、支援者の招待枠があって、自民党の中で割り振っているとういうことではないか」
- 回答:「招待者の取りまとめ等には関与していない」
- 手法:招待枠についての質問をされているのに、招待者の「取りまとめ」について回答。(のちに安倍晋三総理大臣は、招待者の「とりまとめ」には関与していないが、招待者の推薦には関与していたことを認める)
- 2019年11月21日参議院本会議[11][22][23]
- 質問:(安倍晋三総理大臣が推薦者について自分の意見を言っていたと認めたのを受けて)「招待者の取りまとめに関与していないという11月8日の答弁は虚偽答弁ではないか」
- 解答:「最終的な取りまとめには関与していない」
- 「取りまとめ」を「最終的な取りまとめ」と言い換える。過去の事実の書き換え。
- 2020年1月28日衆議院予算委員会[11][24]
- 質問:「桜を見る会の参加者の記録があるはずだ。」
- 回答:「推薦者名簿はすでに廃棄をしている。」
- 手法:記録について聞かれているのに、名簿の有無について回答し、名簿以外の記録の存在について一切答えず。
- 2020年1月28日衆議院予算委員会[25]
- 質問:「仮に内閣府への推薦者名簿を事務所も廃棄していても、首相の後援会名簿には桜を見る会の参加者が記録されているはずだ」
- 回答:「推薦者名簿はすでに廃棄をしている。それ以外に桜を見る会の招待を確認できる名簿などは作成をしていない」
- 手法:「推薦」と「招待」を意図的に使い分け、推薦について聞かれても招待について答えることで推薦者の記録の確認を拒む。
菅義偉[編集]
- 2019年11月29日記者会見[22]
- 質問1:「桜を見る会の招待者名簿の電子データを復元する考えはないのか」
- 回答1:「削減したデータについては復元をすることはできないと聞いている」
- 質問2:「復元できないのは技術的にできないのかルール上できないのか」
- 回答2:「具体的に、技術的にそうなのか、ルール的にそうなのか、そうしたことは承知していない。ただ、そういう形で、ルールに基づいて、政府として、正式に決めて対応している」
- 手法:「復元できない」と「復元できないと聞いている」では、意味は違う。「聞いている」なら、報告した者の事実誤認だったと後から誰かに責任転嫁できる余地を残している。
萩生田光一[編集]
- 2019年11月8日参議院予算委員会[22][26]
- 質問:「ブログで『「今年は平素ご面倒をかけている常任幹事会の皆様をご夫婦でお招きしました』とあるが、常任幹事会の皆様というのはどういう方で、どの府省が推薦したのか」
- 回答:「自分の知り合いの方を、のべつまくなし呼べるという仕組みに、なっておりません」
- 手法:知り合いを「のべつ幕なし」呼べたかどうかを問われたわけではなく、何らかの功績・功労によって推薦されたのかと問われたにもかかわらず、「のべつ幕なし」呼べる仕組みにはなっていないと答えることで、政治家個人が人選して呼べるような仕組みにはなっていないかのように見せかけた。
裁量労働制問題[編集]
安倍晋三[編集]
- 2018年2月20日衆議院予算委員会[8]
- 質問:「(裁量労働制のデータ捏造について)(厚労省の)忖度があったのでは?」
- 回答:「私や私のスタッフが指示したことはない」
- 手法:「忖度」について質問されたが、「指示」ついて回答。
- 2018年3月5日参議院予算委員会[10]
- 質問:「野村不動産で起きた過労自殺の知っていたか」
- 回答:「報告は受けていない」
- 手法:「知っていたか」と聞かれているのに「報告は受けていない」と答え、実際に知っていたかについて答えていない。
加藤勝信[編集]
- 2018年1月31日参議院予算委員会[27]
- 質問:「高度プロフェッショナル制度についての意見の記録は残っているか」
- 回答:「公表する意味で話を聞かせてもらっていない」
- 手法:記録の有無を聞かれているのに一切答えず
- 2018年1月31日参議院予算委員会[28][29]
- 質問:「裁量労働制と高度プロフェッショナル制度について、働く者の側から要請があったのか」
- 回答:「私もいろいろお話を聞く中で、その方は(略)そういった働き方をつくってほしいと要望をいただいた」
- 手法:自ら企業等に出向いて話を聞いたかのような答弁をしていたが、実際には自分で話を聞いていないと後に判明。虚偽答弁を指摘されると、「把握した例として紹介した」「直接話を聞いたとは言っていない」と述べた。
- 2018年3月2日参議院予算委員会[10]
- 質問:「(自民党提出の高度プロフェッショナル制度の法案から)4週間で最初の4日間さえ休ませれば、あとの24日間は、24時間連続で働かせるような危険性が法律上排除されているか」
- 回答:「働かせるということであれば本来この制度というのは適用できなくなる。あくまでも本人が仕事を割り振りして、より効率的な、そして自分の力が発揮できる、こういった状況を作っていくということ」
- 手法:法律の制度上危険性が排除されているかという質問に一切答えず
- 2018年3月2日参議院予算委員会[10]
- 質問:「(自民党提出の高度プロフェッショナル制度の法案から)4週間で最初の4日間さえ休ませれば、あとの24日間は、24時間連続で働かせるような危険性が法律上排除されているか」
- 回答:「働かせるということ自体がこの制度にはなじまない」
- 手法:法律の制度上の危険性が排除されているかという質問に対し、そのような考え方は「なじまない」と、質問と関係ない回答に終始。
- 2018年3月5日参議院予算委員会[10]
- 2018年4月10日参議院厚生労働委員会[10]
- 質問:「野村不動産で起きた過労死の労災認定をいつ知ったのか」
- 回答:「申請時期に関わるので答えられない」
- 手法:勝手に話を大きくして答弁拒否
検察庁法改正案問題[編集]
安倍晋三[編集]
- 2020年5月15日インターネット番組
- 2020年5月18日記者会見[31]
その他[編集]
安倍晋三[編集]
- 2018年6月18日[8]
片山さつき[編集]
- 2018年11月9日[32]
加藤勝信[編集]
- 2020年4月30日参議院予算委員会
ご飯論法を巡る議論・反応[編集]
- プレジデントオンラインは政権の「ご飯論法」 を批難しつつ、「ご飯論法」のような答弁が生じるのは野党側が明確な追求材料を持たず、報道された疑惑を元に質問することが多いからであると指摘した[22]。
- コラムニストの山口博は「ご飯論法」は政治の場に限らずビジネスの現場でも散見されると指摘した[34]。
脚注[編集]
- ^ a b 彰, 池上. “池上さんもあきれた「安倍さんのご飯論法」”. 文春オンライン. 2020年6月11日閲覧。
- ^ a b “おさらい「ご飯論法」って? 「パンは食べたが黙っておく」すりかえ答弁を可視化”. 毎日新聞. 2020年2月13日閲覧。
- ^ “松尾貴史のちょっと違和感:「募っているが募集してない」答弁 閣僚は首傾け、与党席からも失笑” (日本語). 毎日新聞. 2020年5月12日閲覧。
- ^ “上西充子(@mu0283)のツイート”. Twitter. 2020年2月13日閲覧。
- ^ “流行語大賞トップ10入賞の「ご飯論法」とは? 政府の不誠実答弁を許さない「名付けて退治」論”. ハーバービジネスオンライン. 2020年3月20日閲覧。
- ^ “「ご飯論法」…”. 西日本新聞. 2020年3月20日閲覧。
- ^ a b “池上さんもあきれた「安倍さんのご飯論法」”. 文春オンライン. 2020年3月20日閲覧。
- ^ a b c “追及逃れのコミュニケーション術、安倍政権の「ご飯論法」がヒドすぎる - 政治・国際 - ニュース” (日本語). 週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト] (2018年6月26日). 2020年5月9日閲覧。
- ^ “【森島 賢・農政寸評】「#ご飯論法」は安倍内閣のお家芸” (日本語). コラム. 2020年6月12日閲覧。
- ^ a b c d e f “「朝ごはんは食べたか」→「ご飯は食べてません(パンは食べたけど)」のような、加藤厚労大臣のかわし方(上西充子) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 個人. 2020年5月9日閲覧。
- ^ a b c “検証:「桜」すり替え答弁 首相釈明「ご飯論法」で分析” (日本語). 毎日新聞. 2020年6月11日閲覧。
- ^ a b c d e “アクセス:モリカケ疑惑、不誠実な政府答弁 まやかし「ご飯論法」” (日本語). 毎日新聞. 2020年5月9日閲覧。
- ^ a b “東京新聞:野党追及 論点すり替える首相答弁は… 「ご飯論法」:社会(TOKYO Web)”. web.archive.org (2018年7月5日). 2020年5月9日閲覧。
- ^ “安倍首相のご飯論法をパクる片山氏の口上 このまま臨時国会終了なら狙い通り” (日本語). PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2018年11月17日). 2020年5月9日閲覧。
- ^ “首相答弁は「ご飯論法」? 面会問われて、関与なし強調:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “質問・批判をかわす「安倍話法」には4パターンある、その研究” (日本語). Newsweek日本版 (2019年7月12日). 2020年5月9日閲覧。
- ^ “自民党総裁選:発言・論点をはぐらかす 識者が指摘する安倍首相「ご飯論法」の具体例” (日本語). 毎日新聞. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “加計理事長とのゴルフ問われ 首相「将棋はいいのか」:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル. 2020年5月9日閲覧。
- ^ kamiyakenkyujo (1543933545). “新語・流行語大賞トップテン「ご飯論法」受賞でのスピーチ” (日本語). 紙屋研究所. 2020年6月12日閲覧。
- ^ 上西充子 (2020年2月19日). “隠された不都合な事実に目を向けるための「ご飯論法」という読み解き” (日本語). ハーバー・ビジネス・オンライン. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “なぜ政府の新型コロナ対策は「信用できない」と感じられるのか それは国民を騙し続けてきた結果” (日本語). PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2020年3月24日). 2020年6月11日閲覧。
- ^ a b c d “桜を見る会、安倍政権のごまかし見破る六つの注意点 野党を批判している場合でない理由” (日本語). 47NEWS. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “首相の説明にほころび 桜を見る会、推薦に関与” (日本語). 東京新聞 TOKYO Web. 2020年5月9日閲覧。
- ^ (日本語) 【news23】“新しい”国会の見方・・・「ご飯論法」を斬る 2020年6月11日閲覧。
- ^ “推薦と招待、使い分ける首相 識者「これこそご飯論法」:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “文字起こし:「桜を見る会」質疑を支えたもの 山本豊彦(しんぶん赤旗日曜版編集長)・上西充子(国会パブリックビューイング代表) 国会パブリックビューイング 2020年1月6日|上西充子/ Mitsuko Uenishi|note” (日本語). note(ノート). 2020年5月9日閲覧。
- ^ 上西充子 (2019年1月4日). “映像で確認する「ご飯論法」(初級編)。高プロが労働者のニーズに基づくという偽装を維持した詐術 | ハーバー・ビジネス・オンライン | ページ 3” (日本語). ハーバー・ビジネス・オンライン. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “高プロのニーズ聞き取りについて、加藤厚生労働大臣が1月31日に虚偽答弁を行っていたことが判明(上西充子) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 個人. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “上西充子氏「ご飯論法」で危機感 政府の説明力指摘 - 社会 : 日刊スポーツ” (日本語). nikkansports.com. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “安倍首相「黒川さんと二人でお目にかかったこともない」しかし、2018年12月11日の首相動静で、二人の面会は明らか!改めて福島党首から安倍首相を追及して下さい!~5.20 社会民主党 福島瑞穂党首 定例会見” (日本語). IWJ Independent Web Journal (2020年5月20日). 2020年6月11日閲覧。
- ^ “【魚拓】ぶら下がりで首相が言わなかった言葉は・・・:朝日新聞デジタル” (日本語). ウェブ魚拓. 2020年6月11日閲覧。
- ^ “安倍首相のご飯論法をパクる片山氏の口上 このまま臨時国会終了なら狙い通り (2/3)” (日本語). PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2018年11月17日). 2020年5月9日閲覧。
- ^ “<加藤厚労相の言葉>言い訳だけの政治家は人を救えない” (日本語). ニコニコニュース. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “「ご飯論法」の使い手はビジネスの現場にもはびこっている”. ダイヤモンド・オンライン. 2020年5月15日閲覧。
関連項目[編集]
- 詭弁
- 論点のすり替え
- そっちこそどうなんだ主義 - 「ご飯論法」同様に、主に政治的な文脈で言及される。
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