「パラサイト」オスカー4冠を深読みしたい理由(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース
「パラサイト」オスカー4冠を深読みしたい理由
2/13(木) 7:40配信
2月9日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催された第92回アカデミー賞授賞式に出席した『パラサイト』のキャスト(写真:AFP=時事)
Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。
■映画の歴史を塗り替えた『パラサイト』
2月9日(現地時間)にアメリカ・ロサンゼルスで発表された世界最高峰の映画の祭典「第92回アカデミー賞」の主役は、4冠を制覇した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でした。
「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「国際長編映画賞」を受賞し、「世界映画の歴史を塗り替えた」と言われるゆえんは、外国語映画が最重要部門である作品賞を受賞するのが、アカデミー賞が始まって以来初の出来事だったからです。カンヌ国際映画祭最高賞であるパルムドールも受賞し、映画界の頂点W受賞作品としても64年ぶりということですから、賞レースで圧勝を収めたことの価値は計り知れません。
韓国を舞台に全員失業中の半地下に暮らす一家と高台の豪邸に暮らすIT企業社長一家を相対的に描きながら、物語を展開していく『パラサイト』は興行的にもすでに成功を収めています。自国の韓国では動員1000万人突破、フランスでは動員170万人突破、アメリカでは3館から始まった上映が1000館を超え、外国語映画としては現在歴代第6位の成績。今年1月10日に公開が始まった日本でも5週目で動員100万人を超え、興行収入15億円を突破したところです。
これら圧倒的な強さを示すことになった作品を「韓国映画の1作品の快挙」として捉えるだけでは短絡的な話と思わざるにはいられません。もちろん、話題作を純粋に見て楽しむことを否定しているわけではなく、個人が感じる面白さや感動に理屈はありません。ただし、今回は『パラサイト』オスカー4冠獲得の事実を深読みする必要もあると思うのです。なぜなら、世界のエンターテインメント界の分岐点を示すものになったからです。そのきっかけを真っ先に作ったのはNetflixでもあります。
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「パラサイト」オスカー4冠を深読みしたい理由
2/13(木) 7:40配信
■Netflixが主役と見えたが…
前哨戦で注目されたことの1つがスタジオごとのノミネート作品数でした。24作品がノミネートされたNetflixが最多となり、続いてディズニー22作品、ソニー20作品、ユニバーサル13作品、ワーナー12作品でした。ここまではNetflixが主役と見えたアカデミー賞でもありました。アメリカ各誌もNetflixの動向についてこぞって触れています。レッドカーペットに登場したコンテンツ最高責任者のテッド・サランドスに感想を求め、とくにNetflixが多額に費やす作品のPRキャンペーン予算について言及する記事も多くみられました。
結果はNetflixが2作品を受賞。ドキュメンタリー部門では4年連続で勝ち取る手堅さをみせ、長編ドキュメンタリーの『アメリカン・ファクトリー』が受賞しました。米中の経済と社会、文化を浮き彫りにしていく工場物語で、バラク・オバマ前アメリカ大統領と妻ミシェルが立ち上げた制作会社Higher Ground Productions(ハイヤー・グランド・プロダクション)第一弾作品です。もう1つは、現代版『クレイマー、クレイマー』とも言われる映画『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンが助演女優賞を受賞という結果です。
昨年はNetflixが4部門を制覇し、映画『ROMA/ローマ』が監督賞・外国語映画賞・撮影賞の3冠を飾り、ドキュメンタリー映画以外でオスカーを初受賞した記念の年でした。それに比べると今年はその勢いを伸ばすことができなかったとも言えます。
前哨戦で接戦となったディズニー、ソニーが軍配を上げ、それぞれ4冠(ディズニーが『トイストーリー4』長編アニメ映画賞、『ジョジョ・ラビット』脚色賞、『フォードvsフェラーリ』音響編集賞/編集賞、ソニーが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」助演男優賞/美術賞、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』衣装デザイン賞、『Hair Love』短編アニメ賞)の結果に。
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アメリカのメディアからは「Netflixの苦戦」と報じられながらも、同時にハリウッドの勝ち組とわずか数年で横並びに語られるNetflixの力も見せているものだと思います。
代わり映えしなかったスタジオ勢力図に入り込んだNetflixに続き、さらに今年は『パラサイト』のスタジオである韓国CJエンターテインメントもそこに食い込んだことになりました。これは単なる偶然ではないでしょう。
韓国CJエンターテインメントは韓国財閥の1つであるCJグループ傘下に属し、豊富な資金力と制作力を全面に押し出している動きは以前から目立つ存在でもありました。アジア三大映画祭の香港国際映画祭併設イベント「香港フィルマート2019」のカンファレンスに登壇したCJエンターテインメントのチェ・ヨンウチーフプロデューサーがこんな発言をしていました。
アメリカをはじめトルコ、アジア各地で数十本の映画プロジェクトを進めているのは「ユニバーサルで通じるストーリー作りを行うことで、アジア勢もハリウッド制覇を果たすことが可能になる時代がきているからだ」と話していたのです。『パラサイト』がパルムドールもオスカーも手にする前に断言し、実現させてしまうこの強さ。世界の映画界の頂点を狙う戦略を立てていたからこそ自信があったのだろうと後になって思わされます。
■「国策」として世界のトップを目指してきた
韓国は20年にわたり国策として世界のトップを目指し、テレビ、映画、音楽といったエンターテインメント全体で攻勢をかけていることも大きく影響しています。いわば総力戦。プラットフォーマーだけでなく、テレビ、映画の分野でスタジオとしても足固めし、総力で攻めるNetflixと共通しています。一定のユーザーから強固な支持を得るコンテンツ作りと、国際舞台ではしたたかに攻めるという点も似ています。技術の進化やメディア環境が変化しているタイミングも味方にして、勢力図が変わるべきときに攻め入ったことも同じ動きと言えます。
一方で、Netflixと韓国がエンターテインメント界の勢力図に変化をもたらす存在が明らかになる時に限って、日本国内では自国の立ち位置を気にする議論が多少なりとも沸き起こります。今回のアカデミー賞では『スキャンダル』のメイクアップ&ヘアスタイリング賞でカズ・ヒロ(辻一弘)が受賞し、カズ・ヒロにとって昨年に続く2回目の受賞の快挙も話題に上っています。思うにまさにこれが個人戦では世界に勝てる日本を象徴するものだと思います。
総力戦ではNetflixや韓国のような正攻法が試されていない日本。個人戦で道を拓く姿が今の日本の現実。そんなことも印象づけられたアカデミー賞となりました。
長谷川 朋子 :コラムニスト
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