石橋 学 (Gaku Ishibashi)記者より。
「そもそも在日とは何者か、なぜ日本にいるのかということから説明しなければならない。でも、諦めずに『私が朝鮮学校の卒業生です』と姿を見せていくしかない」。強くなることを強いる社会をこそ正さなければならない。差別をしているマジョリティーの問題として。
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【時代の正体取材班=石橋 学】朝鮮学校ほど自分たちの姿を知ってもらおうと努力し、地域に開かれている学校はほかにない。川崎朝鮮初級学校(川崎市川崎区)で15日に開かれた小さな音楽会もそうだった。地元の住民も見守る中、朝鮮学校出身で保護者でもあるアーティストの歌声が響き、目を輝かせる園児・児童たち─。そんなほほえましい光景にもしかし、努力を強いる差別が影を落としていた。
プロの音楽家が奏でる民族楽器の音色が教室いっぱいに響いた。川崎市の補助金が充てられる「多文化共生・地域交流事業」として一昨年に続いて開催された「私たちの歌 私たちの音楽」。じっと聞き入る高学年の男の子がいて、両手をひらひらさせ今にも踊りだしそうな女の子の園児がいる。制度改廃で大幅減額となったものの学ぶ権利はやはり公金を投じて保障されなければならず、県をはじめ自治体で相次いだ補助金打ち切りの罪深さを思い知るに十分な光景─。
「日本で生まれ育ち、同じまちで生きている子どもたち。気に入ってくれると思った」。真っ白なチマ・チョゴリをまとい、人気アニメ「アナと雪の女王」の主題歌を朝鮮語で独唱した歌手の劉礼順(リュイェスン)さんは大喜びの子どもたちの姿に満足そうな笑みを浮かべた。
劉さんは結婚を機に川崎に移り住み、小学3年の娘が同校に通う。在日集住地区にある同校でさえ児童は減り続け、何かできることはないかと姜珠淑(カンジュスク)校長と話し合って始めた音楽会だった。
「朝鮮学校で民族音楽を習ったからこそ今の自分がある。子どもたちの未来の可能性のために学校を守らなければならない。『在日離れ』とも言われるが、差別に打ち勝つには、小さい頃から民族性を身に付けていく必要がある」
自ら口にした「在日離れ」「差別に負けるな」が不条理を浮かび上がらせる。日朝関係が揺らぐたび無関係な在日コリアンへのいわれなき差別は強まり、相次ぐ切り裂き事件で朝鮮学校の女子生徒がチマ・チョゴリの制服を着られなくなって久しい。朝鮮人だと分かれば外も出歩けないような社会で、どうしてありのままの自分を生きられよう。
「確かに人数は少ないが、一人一人に目が行き届く。朝鮮学校の良さを地域の人や在日同胞にもっと知ってもらいたい」
高校、幼児教育・保育の無償化からの排除が経済的にも追い打ちをかける中、懸命に前を向く劉さんだが、心が折れそうになることもある。日本の学校で公演すると子どもたちは素直に拍手を送ってくれる。だが「朝鮮学校」と口にした途端、世間のまなざしは変わる。補助金を不正流用する疑いがあるという誹謗(ひぼう)中傷を国が率先してまき散らすという「官製ヘイト」の暴力。
「どうしたら正しく理解してもらえるのか。そもそも在日とは何者か、なぜ日本にいるのか、ということから説明しなければならない。でも、諦めずに『私が朝鮮学校の卒業生です』と姿を見せていくしかない。子どもには胸を張って『私は在日』『朝鮮学校に通っていた』と言えるようになってほしいから」
自らに言い聞かせるような痛切な響きが続く。
「音楽家としての私の生き方がぶれることはないが、娘は違う。親としてぶれてはいけない。しっかり育てていかなければ」
歯を食いしばらなければ朝鮮人として生きていられない社会、強くなることを強いる社会とは、朝鮮人を等しく処遇することのできない社会、植民地支配の責任を取らないばかりか差別がまかり通る社会だ。問われているのは不公正を正せないマジョリティーのありようだ。
国と市に幼保無償化の適用と救済策を求め、昨年12月から5回目となる署名活動は20日、JR川崎駅前で行われる。教員や保護者、子どもたちがまた街頭に立つ。
◆朝鮮学校と差別政策 朝鮮半島にルーツを持つ子どもたちに民族教育を行う朝鮮学校は日本の植民地支配で奪われた言語や文化、歴史を取り戻そうと終戦直後に在日朝鮮人が設立した国語講習所が始まり。1949年に連合国軍総司令部(GHQ)の方針の下に出された学校閉鎖令をはじめ、各種学校として認可しないよう都道府県に求めた通達など日本政府の差別・弾圧政策は戦後一貫する。現在は学校教育法上、日本の小中学校・高校に当たる「一条校」ではなく、英会話学校などと同じ各種学校に位置付けられ、一条校なら受けられる国の私学助成や税制優遇措置が適用されていない。外国人学校も対象に含まれた高校無償化制度からも拉致問題を理由に朝鮮学校だけが排除され、自治体も補助金の停止で追随。国連人種差別撤廃委員会などの再三の是正勧告に応じず、昨年10月に始まった幼児教育・保育無償化制度からも対象外とされた。
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◆記者の視点=川崎総局・石橋学 朝鮮学校ほど自分たちの姿を知ってもらおうと努力し、地域に開かれている学校はほかにない。川崎朝鮮初級学校(川崎市川崎区)で15日に開かれた小さな音楽会もそうだった。地元...
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