2019-10-10

日本の10代女子に「韓国」がこんなにウケてる「本当のワケ」(飯塚 みちか) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

日本の10代女子に「韓国」がこんなにウケてる「本当のワケ」(飯塚 みちか) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)


日本の10代女子に「韓国」がこんなにウケてる「本当のワケ」

重要な「3つの要因」
テレビではほとんど取り扱われない、なのに若者の間ではなぜか人気があるもの――その一つに「韓国」があるだろう。
昨今、若者向けのWEBメディアや雑誌の見出しには韓国トレンドやK-POPアイドルに関する話題がしばしば並び、若者の間で「韓国っぽい」はもはや「オシャレ」を意味する言葉と化した。
芸能界を目指す若者が、日本ではなく韓国の芸能企画社を目指したり、実際に韓国でデビューするケースも増えている。
お世辞にも良いとはいえない政治的関係があるにもかかわらず、なぜ若者たちは「韓国」に魅了されてしまうのか。その秘密を紐解く上で重要となるのが「SNS」、そして「カウンターカルチャー」である。

韓国の若者向けプロダクトは「SNS映え」

「第三次韓流ブーム」とも呼ばれている現在の韓国ブームを支えているのは、10代を中心とした若年層世代である。
それ以前の「韓国好き」な人々と言えば、中高年の女性だったり「アイドルオタク」だったり「美容・ファッションマニア」だったりすることが多かったが、今回のブームに関してはごくごく普通の――強いて言えばスクールカーストの高そうな若者たちがメイン層となっている。
なぜ、そのような若者たちが「韓国」に熱狂しているのか。それは、SNSを通じて日本に流入してくる韓国のプロダクトが、ことごとく「SNS映え」であるためだ。
例えば「電球ソーダ」。電球を模した容器にカラフルなドリンクが映えるこの商品は、現在でこそタピオカブームに押され下火になってきているものの、元祖「インスタ映えドリンク」として一時若者たちの間で人気となった。実はこの電球ソーダ、一度韓国で流行したのち日本に輸入されてきたものだ。
電球ソーダ




また、9月末よりローソンでも限定商品として取り扱いが始まった「チーズハットク」も、韓国発の食べ物だ。日本に入って来た初期はコリアンタウンのある新大久保での販売が主だったのだが、チーズを伸ばした自撮りを撮るため、多くの若者が新大久保に集い、店の前に列を成す光景が見受けられた。
チーズハットク
食べ物以外にも、「動くうさ耳帽子」や「スタディープランナー(勉強用の紙のスケジュール帳で、可愛く作り込むのが楽しい)」など、韓国から伝播し若者の間で人気となったものは基本的に写真・動画撮影との相性が良いのだが、それはそもそも韓国の若者向けビジネスがことごとく「SNS映え」を意識して設計されているためである。
国策の後押しもあり、早い時期からインターネット普及率が高かった韓国では、SNSが世界的に流行する10年以上も前から、国産のSNSサービスやブログサービスが若者の間で絶大な人気を博していた
とりわけ、人気ブロガーや「オルチャン」と呼ばれる美男・美女の影響力は非常に大きく、2000年代中盤には、今で言う「インフルエンサービジネス」あるいは「インフルエンサーマーケティング」が既に存在していたのだ。
オルチャンが着用した服やアイテムが売れる。有名ブロガーが店舗をブログに取り上げることで、商品が売れ、来客数が増える。そういった効果を期待して、韓国の若者向けのプロダクトは徐々に「SNS映え」に特化されるようになった。その結果、韓国でには、日本を含めた他国に先駆けて「SNS映え」のノウハウが蓄積されていったのである。
そんな韓国のプロダクトを、「SNS映え」を求める日本の若者たちが見つけるのにそう時間はかからなかった。「SNS映え」の観点において、日本よりも洗練されたプロダクトを発信し続ける「韓国」は、あっという間に日本の若者たちの心を掴んだのだ。
韓国の人気カフェの内観。確かに可愛い…〔PHOTO〕著者撮影

若者による若者のためのビジネス

では、プロダクトの見た目を「SNS映え」に寄せさえすれば若者を虜にできるのかと言うと、決してそうではない。若者の気持ちを真に理解し、その心を掴むことができるのは、やはり若者なのだ。そして、韓国の若者向けビジネスの多くは、「若者による若者のためのビジネス」であることが多い。
代表的なのが、「スタイルナンダ」というファッションECサイトである。CEOはキム・ソヒ氏という34歳の女性だ。2005年に当時弱冠22歳だったソヒ氏が立ち上げたこのブランドは、2018年に世界最大の化粧品会社・ロレアルに売却された。その金額は日本円にしておよそ400億円と言われている。
スタイルナンダの日本語版サイトより引用
スタイルナンダの成功は、「若者が憧れるものを、若者センスで作り上げ、若者に向けて発信していく」というシンプルな手法を突き通したことにある。スタイルナンダほどの規模感でなくとも、若者に人気のある韓国のブランドは「作り手である若者の感性」を最大限に尊重したブランディング・商品開発が行われていることがほとんどだ。
それを実現できる一つの理由として、韓国には未だ多くの町工場が残っていることが挙げられるだろう。印刷物にしろ縫製品にしろ、日本と比べて小ロット・低価格で生産を行うことができ、自分の感性に基づいた製品をとりあえず作ってみること、それをもとにビジネスに踏み出すことのハードルが低いのだ。
筆者の周囲にも、オリジナルの文房具やぬいぐるみなどを工場で生産したことのある韓国人の知人が何人もいる。初めは趣味からスタートし、それがいつの間にかビジネスになっていたというパターンも多い。最近では、古くなり価値の下がった建物を活用し、20・30代の若者が店を開くケースも増えている。
また、ミレニアル世代以下の韓国人は、幼少期から日本のアニメやマンガ・ドラマなどをほぼリアルタイムに視聴していることから、同世代の日本人と趣味趣向が近しい傾向が見受けられる。過去はともかく、今の日本の若者にとって、韓国の若者の生み出したビジネスとそこから生まれたカルチャーは、かなり受け入れやすい形状をしているのだ。

カウンターカルチャーとしての韓国

前述したとおり、韓国の若者が生み出すブランドやプロダクトは、日本の若者と「相性のよいもの」である。しかし、ただ相性がよいだけでは、ここまでの熱狂は生まれない。
若者たちが韓国に熱狂するのは、若者たちの感じている「韓国のよさ」が「大人にはわからないもの」だから――つまり、「韓国」が、若い世代にとって一つのカウンターカルチャーとして機能しはじめているためだ、と筆者は考えている。ビートルズやミニスカート、「みゆき族」など過去に爆発的に普及した若者文化も、年長者が理解できなかったからこそ人気に火がついた側面があるだろう。
例えば「ハングル文字」。驚くべきことに現在日本には、韓国語教育を受けていないにもかかわらず、自分の名前程度であればハングル文字を書くことができるという若者が一定数存在する。
「ハングルを読み書きできる」ことは、過去の若者文化で喩えると「ギャル文字を読み書きできる」ということに近い。要は、自分たちと異なる文化圏の人間を区別するための「暗号」として、一部の若者たちはハングルを使用しているのだ。
また、日本の若者の間でのジェンダーに対するまなざしの変化もある。K-POPにおいては「かわいさ」ではなく「強さ」を見せる女性アイドルや、「逞しさ」ではなく「美しさ」や「儚さ」を見せる男性アイドルも少なくないが、そこに共感したり、憧れを抱くファンも多い。こうした価値観は、日本の年長者の感覚では少し理解しにくいものかもしれない。
そもそも、冒頭に記した「SNS映え」という価値観そのものが、大人にはなかなか理解できないものだろう。更に言えば「若者による若者のためのビジネス」というものは、それ自体が、大人たちの創る社会に対する反抗だと言えるだろう。
韓国の若者達も、日本と似た――ともすれば日本よりも強い抑圧を社会から強いられている現状がある。若年層の体感失業率は25%を超えているというし、女性やマイノリティに対する差別もまだまだ熾烈なものだ。
そんな状況下にありながら、自分たちの欲しいものを自分たちで作り上げようとする韓国の若者たちのクリエイティビティに、意識的にも無意識的にもシンパシーを感じたり、引き寄せられてしまう若者たちも多いのではないだろうか。
韓国の雑貨店ARTBOXの外観〔PHOTO〕著者撮影
大人たちが「韓国のどこがいいの?」と眉をひそめるほど、若者たちの中では韓国が「自分たちだけのもの」になっていく。若者たちの信ずる「韓国」は、「過去の歴史」の中ではなく、「今自分たちが向き合っているカルチャー」の中に存在しているのだ。






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