加藤泰「男の顔は履歴書」(1966)を「新文芸座」で見た。: 下川正晴コリア研究室
2015年09月15日
加藤泰「男の顔は履歴書」(1966)を「新文芸座」で見た。
日韓関係
加藤泰監督「男の顔は履歴書」(1966)を「新文芸座」で見た。今度で2度目。驚嘆した。★★★★★★★、星7つの140点である。
3、4年前に大分市「シネマ5」の加藤泰特集で見たときも仰天したが、今度も仰天した。2度も驚かされる映画って、滅多にない。なにせ戦後のヤミ市で乱暴狼藉を働く韓国人暴力団に、日本人医師(安藤昇=暴力団幹部出身の俳優)が立ち向かうという破天荒な映画だ。映画のさなかに「三国人」という台詞が十数回も飛び交う。こんな映画は今は作れない。石原慎太郎が「三国人」と言ったとたん、「差別発言だ!」とマスコミで叩かれる世の中だからだ。
http://eiga.com/movie/35257/
この映画の公開が1966年。時代の微妙な別れ目だった。1967年11月になると、玉木素「民族的責任の思想」(お茶の水書房)が出版される。そんな時代だ。1965年に日韓基本条約の締結があった。当時は社会党等の左派陣営(北朝鮮の味方)が「南北分断を固定する」とか言って、条約に反対していた時代だ。北朝鮮による対日工作が功を奏して、対朝鮮「贖罪史観」が大手を振ってまかり通るのは、その後である。だから1966年当時まではギリギリ、「三国人敵視」と誤解されそうな映画も作れた。
しかし、これは「韓国人敵視」の映画では決してない。
冒頭からエンディングまで台詞をちゃんと聞けば、それは明瞭に理解できる。とんでもなく「未来志向」「和解志向」の映画である。伏線がやたらとある。エンディングの台詞はこうだ。「父ちゃんが命と戦うところを見せてあげるんです」。重要な役割の中原早苗(日本人)が、手術台の夫(在日韓国人)と一人娘を前に、こう叫ぶ。ネトウヨ、ヘイトスピーチ真っ青の「日韓連帯」なのである。
安藤の弟で日本人大学生(伊丹十三)と、チマチョゴリが美しい在日韓国人の娘(真理明美)のロマンス。これもロミオとジュリエットの物語である。この映画は、もう1度、もう2度見て、シナリオや構成を分析する必要がある。それほど重要な映画だ。
この映画に比べれば、1960年代の日韓高校生の対決を描いた「パッチギ」(2005)は、ゴミみたいなものだ。昨日見たばかりの「仁義なき戦い」(深作欣二監督、笠原和夫脚本、1973)にしても色あせてしまう。なんと、この映画では「仁義なき戦い」の主演、菅原文太が韓国人チンピラ役の赤シャツ姿で再三登場し、日本人を口汚く罵倒する台詞を、これでもかとぶちかますのだ。(「仁義・・」では被差別部落問題や朝鮮差別問題は回避されている)。彼らのボス役が内田良平と、すごいキャスティングだったのである。ちなみに、日本人ヤクザ(テキ屋)の親分は、嵐寛寿郎。鞍馬天狗というより、明治天皇のイメージだ。(笑)。
もっとも注目されるのが、日本人医師(安藤昇)と韓国人暴力団幹部(日本名・柴田)が、沖縄の戦場で戦った「同士」だということだ。これこそが、この映画全体を貫くテーマだと断言できる。なんという映画なのだろうか。
この映画をかつて「シネマ5」で見た時に調べたら、当時はDVDがなかった。「そのうち上映できなくなるかもしれん」と思い、僕はAmazonでVHSを買って、その事態に備えた。ところが今日、調べて見たら3年ほど前にDVD化されていた。「あの頃映画・松竹DVDコレクション」の一環である。(笑)。素晴らしい。こういう作品がいつでも見られるのは、表現の自由の観点からみてもいいことだ。
「差別語糾弾」のマニュアルとも言える梶村秀樹ら編「朝鮮人差別とことば」(明石書店、1986)でも、この映画はとりあげられていない。なんとも不思議なことだ。この本の製作に加わったイ・サンホ氏(人権活動家)や内海愛子さん(大学教授)に、映画の感想を聞いてみたくなる。在日コリアン映画をテーマにした論文も読んだ事はあるが、この映画はタイトルが触れられている程度だった。どういうことなのかなあ。
こういった意味で、この映画はかなり深く探究できる映画だ。そのキイパーソンが脚本を書いた星川清司という人物だと思われる。加藤監督は彼の脚本を見て、やる気になったらしい。監督本人は「民族問題とか特にね・・」と言っていたのを読んだ事がある。問題の人物・星川は、直木賞の最高齢受賞者だ。コリアとの関係は不明だ。どういう人なのか。調べてみると、彼には「大映京都撮影所カツドウヤ繁昌記」(日本経済新聞社、1997年)という著作がある。読んでみなければなるまい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/星川清司
安藤昇の本も調べた方が良いかもしれない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/安藤昇
この映画には本当は150点あげてもいい。だが、タイトルが映画の内容と無関係なので10点減点した。大宅壮一が安藤の顔(頬に大きな切り傷がある)を見て言った言葉だ。映画のタイトルの文字も、大宅が書いていた。だから映画の内容とはまるで関係ない。リンカーンじゃないんだからね(笑)。
<追記①>上映終了後、映画館のひとに聞いたら、3年ほど前に「ニュープリント」が作られたという。それを機会に「加藤泰特集」が全国巡回し、それがDVDが作られる契機になったということなのか。とにかく制作経緯を含めて、調べるべき事が多い作品である。そして、この映画がいま池袋のど真ん中のコリアン系企業(マルハン)の映画館「新文芸座」で、「戦後70年企画」として上映された。なんとも驚異的な映画であった。
<追記②>星川の映画本は、品川の図書館で見つけた。借りに行く。安藤昇の自伝は港区の図書館にあった。予約しておいた。
〈追記④〉星川の本を図書館から借りてきた。タイトル通り、大映時代の思い出を書いた本だ。コリアがらみの記述はなかった。謎は深まる。
日韓関係
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