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日本の国際捕鯨委員会(IWC) からの脱退と
商業捕鯨の再開に至る政治外交史的考察
ー「自由民主党捕鯨議員連盟」の 1985 年 5 月の結成以来の活動に焦点を置いてー
特集
はじめに
2018年12月25日の安倍内閣の商業捕鯨の再開を意図し
た国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退に関する閣議決定は、
国内外で衝撃をもって受けとめられた。脱退に至る背景や、
要因、今後の展望等については翌26日に行われた菅官房
長官による談話という形で公表される。少し長いが安倍政
権側の立場、認識、論理を知るために以下に引用する。
今回の決定と一日遅れの公表に対しては国内のメデイア
からも概して辛口の報道がなされる。指摘された問題的側
面について要約すれば以下のようになろう。
第一に、唐突な決定の印象が強く、なぜ、この時期にこ
のような重大な決定を政府が、という疑問。
第二に、一方的で自国中心主義的なIWC脱退という方
法で商業捕鯨の再開を実現せんとする安倍政権の姿勢が抱
える問題ー特に、IWCを脱退して得る国益?とされるも
のと比較した代償とリスクの大きさ。
筆者からすれば、そもそも世界有数の経済大国の日本、
国民の大半は捕鯨と鯨食には全く興味を示さず、大手の捕
鯨会社も経営難から40年以上前に操業から撤退、捕鯨産
業には巨大な空洞があるにもかかわらず、日本政府が捕鯨
問題に驚くほどの高い優先順位を与えてきている不可思議
な状況自体に分析のメスを入れるべきではと考えるが。
第三に、国際機関からの脱退という重大な決定に至る過
程が不透明であり、主権者・納税者である国民一般に対す
る説明責任が果たせてないのでは?という重要な疑問も提
起される。
外交と内政には相互に影響を及ぼしあう関係がある。第
一次世界大戦(1914-1918 )の惨禍を踏まえて生まれた
考え方とアプローチ、つまり内政だけでなく外交問題に対
しても関心を払い民主主義的なコントロールを機能させる
ことが主権者である人々には求められている、というE・
H カーの指摘(『危機の二十年』岩波書店 1999年7月、
P.20 )は、日本政府の捕鯨問題への対処に関しても該当す
るのではないか。実際に今回の安倍政権によるIWC脱退
と商業捕鯨の再開という政策決定には透明性も説明責任性
も乏しいことが問題視されている。
ただ残念なことに「自民党捕鯨議員連盟」の活動と最終決
定政策者=首相との関係について具体的に俎上に載せて調
査した報道はなされていない。そのため本稿では、以上の
メデイア報道の問題意識とその報道内容一般を評価しつつ
(例、井田徹治(共同通信)” IWCからの脱退ー利益少なく、
失 う も の 多 い”、『世 界』岩 波 書 店、2019 年 3 月 号、
pp.31-34 )日本の捕鯨政策の形成ー決定過程における主要
アクターである自由民主党捕鯨議員連盟と最高政策決定者
=首相との関係の在り方について考察を試みる。
本論の構成
考察の順序としては前編では第1に「自民党捕鯨議員連
盟」について1985年の創設時の背景、主張、活動につい
て光を当てると共に現在の同捕鯨議員連盟の主張・活動と
の史的連続性を明らかとする。
第2に、同議員連盟創設のきっかけとなった中曽根政権
(1982年11月~ 1987年11月)によるラジカルな取り組
平成30年12月26日 内閣官房長官談話
一 我が国は、科学的根拠に基づいて水産資源を持続的に利
用するとの基本姿勢の下、昭和六十三年以降中断している
商業捕鯨を来年七月から再開することとし、国際捕鯨取締
条約から脱退することを決定しました。
二 我が国は、国際捕鯨委員会(IWC)が、国際捕鯨取締条約
の下、鯨類の保存と捕鯨産業の秩序ある発展という二つの
役割を持っていることを踏まえ、いわゆる商業捕鯨モラト
リアムが決定されて以降、持続可能な商業捕鯨の実施を目
指して、三十年以上にわたり、収集したデータを基に誠意
をもって対話を進め、解決策を模索してきました。
三 しかし、鯨類の中には十分な資源量が確認されているも
のがあるにもかかわらず、保護のみを重視し、持続的利用
の必要性を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られ
ず、商業捕鯨モラトリアムについても、遅くとも平成二年
までに見直しを行うことがIWCの義務とされているにもか
かわらず、見直しがなされてきていません。
四 さらに、本年九月のIWC総会でも、条約に明記されてい
る捕鯨産業の秩序ある発展という目的はおよそ顧みられる
ことはなく、鯨類に対する異なる意見や立場が共存する可
能性すらないことが、誠に残念ながら明らかとなりました。
この結果、今回の決断に至りました。
五 脱退するとはいえ、国際的な海洋生物資源の管理に協力
していくという我が国の考えは変わりません。IWCにオブ
ザーバーとして参加するなど、国際機関と連携しながら、
科学的知見に基づく鯨類の資源管理に貢献する所存です。
六 また、水産資源の持続的な利用という我が国の立場を共
有する国々との連携をさらに強化し、このような立場に対
する国際社会の支持を拡大していくとともに、IWCが本来
の機能を回復するよう取り組んでいきます。
七 脱退の効力が発生する来年七月から我が国が行う商業捕
鯨は、我が国の領海及び排他的経済水域に限定し、南極海・
南半球では捕獲を行いません。また国際法に従うとともに、
鯨類の資源に悪影響を与えないようIWCで採択された方式
により算出される捕獲枠の範囲内で行います。
八 我が国は、古来、鯨を食料としてばかりでなく様々な用
途に利用し、捕鯨に携わることによってそれぞれの地域が
支えられ、また、そのことが鯨を利用する文化や生活を築
いてきました。科学的根拠に基づき水産資源を持続的に利
用するという考え方が各国に共有され、次の世代に継承さ
れていくことを期待しています。
森川 純 (酪農学園大学名誉教授・JWCS理事 )
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