2021-04-28

【第788回】閣議決定「『従軍慰安婦』使わない」を評価する « 今週の直言 « 公益財団法人 国家基本問題研究所

【第788回】閣議決定「『従軍慰安婦』使わない」を評価する « 今週の直言 « 公益財団法人 国家基本問題研究所

西岡力

【第788回】閣議決定「『従軍慰安婦』使わない」を評価する

西岡力 / 2021.04.27 (火)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 4月27日、菅内閣が慰安婦問題と朝鮮人戦時労働者問題で重要な閣議決定を行った。「従軍慰安婦」という用語はたとえ「いわゆる」が付いても不適切であり、また朝鮮人戦時労働者について「強制連行」や「強制労働」という用語も不適切だと決定したのだ。

 ●「いわゆる」も排除
 昨年、文部科学省の検定に合格した山川出版の中学歴史教科書に「いわゆる従軍慰安婦」という表現が使われた。安倍晋三政権下で、教科書検定基準に閣議決定などの政府見解を用いることが決められ、それによって領土問題などで我が国の立場がきちんと書かれるようになった。ところが慰安婦に関しては、平成5年の河野洋平官房長官談話で「いわゆる従軍慰安婦問題」という言い方が出てくることが悪用され、その表現が検定を通ってしまった。
 「従軍慰安婦」という用語は当時使われておらず、戦後に造語されたものだ。強制連行をイメージさせるので、最近は学術用語や政府文書では使われていない。次の検定でこの語の使用をやめさせるには、閣議決定が有効と考えられていた。
 維新の会の馬場伸幸衆院議員は4月16日に提出した質問主意書で、政府として「従軍慰安婦」「いわゆる従軍慰安婦」そして「慰安婦として従軍させられた」など「従軍」と「慰安婦」を組み合わせて使うことは不適切ではないか、と問うた。それに対して27日、菅内閣は「政府としては、『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、『従軍慰安婦』又は『いわゆる従軍慰安婦』ではなく、単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である(略)『従軍』と『慰安婦』の用語を組み合わせて用いるなど、同様の誤解を招きうる表現についても使用しない」という明確な答弁を閣議決定した。

 ●戦時労働者「強制連行」も不適切
 また馬場議員は朝鮮人戦時労働者に「強制連行」「強制労働」という用語を使うことは不適切ではないかという、質問主意書も同時に出していた。これに対して政府はやはり27日に「朝鮮半島から内地に移入した人々の経緯は様々であり、これらの人々について、『強制連行された』若しくは『強制的に連行された』と一括りに表現することは、適切でない」「国民徴用令により徴用された朝鮮半島の労働者の移入については(略)『強制連行』又は『連行』ではなく『徴用』を用いることが適切である」「『募集』、『官斡旋』及び『徴用』による労務については、いずれも強制労働に関する条約上の『強制労働』には該当していないものと考えており、これらを『強制労働』と表現することは、適切ではない」という答弁を閣議決定した。
 今回の二つの閣議決定により、今後教科書から「従軍慰安婦」「強制連行」「強制労働」という反日的な用語が追放されるはずだ。菅義偉政権の毅然とした姿勢を高く評価したい。(了)

  • 「従軍慰安婦」は、1973年に双葉社から刊行された千⽥夏光著『従軍慰安婦―"声なき⼥"⼋万⼈の告発』や1978年に三一新書として刊行された千田著『従軍慰安婦 正編』がきっかけに広まったとされています。同時期の金一勉著『天皇の軍隊と朝鮮⼈慰安婦』(三⼀書房、1976年)では、金は「軍隊慰安婦」という呼称を用いている。朝鮮・韓国では挺身隊と呼称されることがあったのはご存じの通り。半島女子勤労挺身隊との混同の風説は、当時からあったことは記録で確認されている。しかし「従軍慰安婦」はない。
     千田の著書が「従軍慰安婦」の初出か? 千田の造語?
     ともかく日本で生まれた造語ですね。
     千田の『従軍慰安婦』は、誤認・歪曲の多い著書で、今日でも日本軍慰安婦や同問題認識に大きな影響を与えていますけれども、そちらの深刻な問題が優先され、「従軍慰安婦」という造語の問題は後回しにされてきたという感もありますね。
     従軍看護婦とか従軍記者、従軍画家といった呼称は戦中も用いられていたが、従軍慰安婦という呼称は見られない。日本軍の関与を強調する意味合いで慰安婦に冠せられたのでしょうね。
     1995年には吉見義明著『従軍慰安婦』(岩波新書)があり(厳格な言葉の定義を要求される研究者が安直にこの造語を用いるのは解せませんが)、1996年6月20日の日弁連会長声明でも「従軍慰安婦」の呼称が採用されています。こういうことで「従軍慰安婦」が広まってしまったということか。
     「従軍慰安婦」という呼称が、誤った認識を喚起してしまうのは、西岡さんのご指摘の通りだと思います。日本軍慰安婦の正しい理解の障害となる。
    日本弁護士連合会:従軍慰安婦問題に関する会長声明
    NICHIBENREN.OR.JP
    日本弁護士連合会:従軍慰安婦問題に関する会長声明
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  •  ちなみに、韓国のWikipediaの「위안부」の項では〝일본 우익세력에서는 종군 위안부(일본어: 從軍慰安婦, じゅうぐんいあんふ 주군이안후[*]) 라고 일컫는다. 〟(引用)と説明されていますね(笑
     こういう認識のせいかどうか知りませんが、韓国では「종군 위안부」は流行らなかった? 韓国の報道メディア等の記述には、あまり見当たりませんよね。
     しかし、これは違うんじゃないかなあ。日本ではどちらかというと左派とされる傾向の方々が「従軍慰安婦」の呼称を好んで多用する。
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