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「北朝鮮への経済制裁」現地で見えた真の影響
現地エコノミストが明かす変化と経済の展望
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福田 恵介 : 東洋経済 記者 著者フォロー
2018/03/01 5:00
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平壌・黎明通りの裏通り(記者撮影)
米国のドナルド・トランプ大統領は2月25日、北朝鮮に対し経済制裁を強化した。一昨年以降、核・ミサイル開発を進めてきた北朝鮮に対する経済的な圧力は高まるばかりだ。
2月26日発売の『週刊東洋経済』は、「日本人が知らない地政学」を特集。米国と中国の覇権争いや、流動化する世界情勢を解説している。
経済制裁の影響は?
経済制裁を北朝鮮側はどう受け止めているか。2018年1月、記者は平壌を取材した。厳冬の時期でもあり、平壌市内は中心部でも若干人通りが少ない印象を受けたものの、1年半前の訪問時とそれほど変わらない印象を受けた。
スーパーなどの商業施設では買い物客で賑わい、商品の数も多かった。ただ、数年前には中国産など外国産商品が棚の多くを占めていたが、特に食料費や日用品では、北朝鮮国産品のほうが圧倒的に増えていた。
平壌第一百貨店(記者撮影)
電気事情も、滞在中に停電はなかった。市内を行き交う車の数も多く、時間帯によっては渋滞が発生。バスやトロリーバス、市電も通常通りに運行されていた。「高騰している」と伝えられてきたガソリン価格については、現地では誰もが「ガソリンは高くなった」と口をそろえた。
だが、平壌市内は前回来た1年半前と比べて、車の通行量が少なくなったとは思えなかった。タクシーの数も増えており、市民たちは気軽に利用している。商業・娯楽施設の前では客待ちをするタクシーも少なくはなかった。レストランなど外食を楽しむ人たちも多く、食材も豊富にあった。少なくとも平壌では、表面上は経済制裁の影響を強く感じることはなかった。
2018年元日の新年の辞で、金正恩・朝鮮労働党委員長は核武力の完成を誇ったが、実は経済に関する言及が多かった。今年は「国家経済発展5カ年戦略は3年目を迎える年」とし、「経済部門全般において活性化の突破口を開くべき」「人民経済の自立性と主体性を強化し、人民生活を向
上させる」とアピールした。
ただ、北朝鮮の外では、「重油が手に入らず、生産体制にかなりの支障を来している」(北朝鮮と取引する中国人ビジネスマン)という話もよく聞かれるようになった。重油が供給されない、供給されても「中国での購入価格の2倍」など高すぎて買えないという状況が続いているという。また、2013年に北朝鮮が制定した経済開発区も、当初は中国企業などが投資を行い運営しようとしたが、その後の投資が経済制裁で厳しくなり、外国企業が撤退した経済開発区もあるという。
北朝鮮は経済の現状をどう見ているのか。平壌で朝鮮社会科学院経済研究所の李基成(リ・ギソン)教授から、北朝鮮経済の現状や経済制裁について聞いた。李教授は、北朝鮮を代表するエコノミストだ。
最も影響を受けているのは4分野
――国際的な経済制裁は北朝鮮経済にどのような影響を与えているか。
李 基成(以下、李):影響は当然ある。最も影響を受けているのは、「貿易取引」「金融」「投資」「科学技術」の4分野だ。
李基成教授(記者撮影)
まず、貿易取引では、自国になく、かつ必要なものが入ってこなくなった。自立経済を目指すとはいえ、国内で不足しているものはある。特に燃料関連品だ。原油はまだ入ってくるが量は少なくなった。ガソリンの供給状態も厳しい。コークスも入らなくなった。自国(北朝鮮)からの石炭の輸出も厳しくなった。
石炭の輸出はもともと外貨収入がほしいから輸出していたわけではない。質の良い石炭を求める需要があったために輸出していた。この輸出で得られた外貨は、炭鉱の生産に必要な生産設備の部品などを買うために充てていたが、これら部品なども制裁の対象になってしまった。
次に金融分野では、対外決済ができなくなった。第三国を通じた決済も、制裁による圧力強化で難しくなった。金融取引全体に負担が重くのしかかるようになった。
投資について言えば、海外からの投資受け入れがどのようになるか不透明になってきた。2013年から22カ所の経済開発区を設立したが、ここへの投資が制限されている。経済開発区の設置は、国内外からの投資で経済の活性化を図るためだったが、外部からの投資がほとんど来なくなった。投資はゼロではない。一部サービス業関連への投資はあるが、ほとんど投資が来なくなったと言ってもよい。
これについて金・委員長は「自分たちの資金で投資していこう」という方針を立てた。その一例が、元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光特区だ。ここには2~3年前からインフラへの投資は進められてきたが、これからはホテルなどの施設関連への投資・整備を進めていくことになる。
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科学技術分野について言うと、この分野での経済的活動において、必要な部品だが「買えばいい」と考えていたものまで、経済制裁による制限を受けるようになった。たとえば、火力発電所で使われる、発電を調整するような装置の開発・製造・保守などに制限を受けている。装置を作ろうと思えば作ることはできなくはないが、これまで外部からの輸入で済むだろうと考え、そのようなものまで作る計画ではなかったものだ。
――李教授はこれまで、北朝鮮の経済統計について「米国と対立関係にあるため、最新のものは公表できない」と言ってきた。今回、公表できる新たな統計はあるか。
李:統計は、やはり米国との対立関係を考慮して公表できない。ただ、2015年の穀物生産量は589万トンで、それまで多かった1980年代の水準を超えたことは現段階で言える。
1人当たりGDPは、2013年1013ドル、2014年1054ドルで、2015年以降は開示できない。ただ、2015年のGDP成長率は7.5%成長で、2010年代からはほぼ7~8%台の成長を続けている。
人民経済での主体化、現代化
――2017年の北朝鮮経済はどうだったか。
李:多くの分野で成果はあった。まず、核武力が完成したこと。これにより、経済成長のための努力を安全な環境でじっくりと行えるようになった。
次に、人民経済での主体化、現代化とともに、経済部門全般で物質的・技術的土台が強化された。金属工業分野の主体化が進み、製造段階でコークスや重油を使わなくて済むようになった。たとえば、「酸素熱法溶鉱炉」が完成したことが象徴的な成果だ。
化学工業では、窒素肥料を国内で生産・供給できる体制が整った。2018年12月には完全に生産を進めることができる。また、合成繊維分野で成果もあった。C1(一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、メタノールなど炭素数1の化合物の製法、またはこれらを原料とした有機化合物の合成法を利用した)工業を行う体制も用意した。
228ビナロン企業所では、苛性ソーダ生産工場を大規模に行うようになった。軽工業でも新製品が増えた。平壌化粧品工場や柳京靴工場がその代表例だ。自国の原料による軽工業生産の改善・現代化が進んだ。機械工業では新型トラクターやトラックが生産できるようになった。
電力工業では発電能力が増強された。新たな発電所も建設(数十万キロワット)された。北倉火力発電所など、火力発電の能力も向上した(北倉火力発電所)。また2017年5月には、最大規模の瑞山水力発電所が2017年5月に着工された。石炭で先進的な能力と技術で生産量が増えたことが、火力発電の能力を向上させるきっかけともなった。
科学技術分野でもさまざまな工夫を元に、多くの新技術が開発された。先端科学技術でも、たとえばセキュリティ分野でのプログラム操作システムやブロック暗号の開発なども成果を上げた。
水産分野でも、鱈の養殖技術の基礎を作った。水産業における統合資産システムを開発した。また、養殖システムも開発された。
建設分野では環境を意識した、いわば「グリーン建設」をスローガンに、平壌・黎明通りなどエネルギー節約型による建設がなされた。
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――2018年の北朝鮮経済の展望は。
李:全般的に経済の活性化に向けた突破口を開くというのが基本方針だ。国家経済発展5カ年戦略を完遂させるための突破口を開くという意味になる。経済活動の正常化と、正常化からさらに高みを目指す経済活動を繰り広げていく方針だ。それには、電力工業における自立性と主体性を強化することに集中し、人民生活を改善・向上させていく。自立はエンジンであり、経済発展の土台だと考えている。
――国家経済発展5カ年戦略に関し、数値目標が明らかになっていないので、どのような戦略なのか外部では理解できないままだ。
李:これも数値目標は明らかにすることができない。だが、以下のように理解しておけばいいだろう。すなわち、エネルギー問題を基本的に解決し、食糧の確保と食べる問題(生活問題)を完全に解決すること。自国民の消費問題を解決することを目標としている、ということだ。
最近の経済動向で、興味深い現象が進行中であることがわかった。この5年ほど、朝鮮社会科学院経済研究所が国内市場に関するデータを収集している。これによると、市場の数、ここで働く労働者数、取り扱う品物の数や金額などが減っていることが判明した。
これが意味することは、国家による経済管理が徐々に効き始めているということだ。国営商店などが増え、人民の生活が徐々に市場から離れているのは確かだ。
――経済制裁によりエネルギー分野、特に重油やガソリンの不足が外部でよく取りざたされているが。
李:確かにガソリン価格は上がった。だが、バスやタクシーなど大衆交通機関の運賃は値上がりしていない。これは、ガソリン価格の上昇が実生活においてそれほど悪影響をもたらしていないということだ。
電力事情は改善しているのか?
――筆者はこの5年間、毎年訪朝しているが、電力事情は徐々に改善していることを実感している。だが、経済活動において電力事情はどれほど改善しているのか。エネルギー問題は解決の方向に進んでいるのか。
李:北朝鮮国内の電力生産能力は700万キロワットある。2018年は、発電設備の更新・修繕を進めていく。前述したように、水力発電所も増強し、建設中の発電所は完成を前倒しさせる。同時に、自然エネルギーの開発も進めていく。
特に今年は、火力発電所の設備更新など積極的に補強していく方針だ。石炭生産が安定しており、制裁で輸出が厳しくなっているぶん、国内に回し発電量を増強させる。また、山間地帯などでは中小発電所の建設を増やし、電力を効果的・戦略的に供給できるようにしていく。
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- NO NAME36fe826ea998北に関しては、北朝鮮に行ったこともない自称専門家が憶測で書く記事が溢れる中で現地で毎年取材して報道する姿勢とそこからもたらされる情報は大変貴重だと思います。何かと大変だと思いますがこれからもこのような情報発信をして下さり、国民に正しい情報を伝えてください。5452018/3/1 13:48
- NO NAME4bd07c61a70f困難な環境もあるでしょうが、情報を伝えるマスコミの使命を今後も果たしていって欲しい。期待しています。(私達読者も「鵜呑み」にせず 一資料として読んでいますから。)4122018/3/1 12:46
- NO NAME010156edbb22経済制裁を受けても活路を見い出している感じで、なかなかしぶとい。4232018/3/1 10:05
- NO NAME7e3ea1ae4053思っていた程制裁が効いていないようなので、もっと徹底的な制裁措置が必要だと思う。
例えば、原油の全面禁輸などだ。
そうこうしているうちにも、核とミサイルの開発が進んでいる訳で、北朝鮮が音を上げる様な制裁措置が急がれる。1122018/3/2 18:42 - NO NAME92334fc6d33b石油製品が出回ってる様子だとやっぱり制裁は効いてないようだな。
ただ都市部以外がどうなのかが気になる。都市部はパフォーマンスでいくらでもなるからね。実際ソ連も似たようなことしてたし。912018/3/1 19:00 - NO NAMEd9b97518ade5このコメント欄に、北朝鮮の工作員みたいなコメントを書いている人がいるのだが(苦笑)…822018/3/2 23:07
- NO NAMEbd3a1c566ff1核兵器を放棄させるための経済制裁がほとんど効いていない。
別の手段を早急に行使しなければならない。742018/3/1 18:18 - NO NAME6ca1fa7d5445大通りでその暗さって貧しいねえ312018/3/1 17:12
- NO NAMEc3e127e95c2a国内から搾取して平壌だけは物がある状態にしたようで朝鮮国内の惨状が目に浮かびます。人として朝鮮を絶対に許してはいけません。1092018/3/1 18:41
- NO NAMEb8c987d460d7エネルギー源にせよ食糧にせよ、ある程度の自給率があるのは、国や社会の存続にとって、特に非常時には大切なことだと分かる。振り返ると、日本はどうなのかなと不安になる。経済指標の波に一喜一憂してばかりいないで、輸出入への過度の依存から抜け出した、持続可能な社会を構想していく必要はないだろうか? 北朝鮮は現状完全に敵国扱いで、憎悪と非難の目ばかりが向けられている。拉致問題や核兵器の問題があるから当然ではあるのだが、それはそれとして、彼らの取り組みから学べることも、案外いろいろとあるのではないか。この記事からそんなことを感じた。122018/3/3 10:18
- NO NAMEd71fc232becb第三者的な位置からの情報収集と分析は自らの行動の礎となる。
目くらまし的に日の丸振るだけが愛国ではないし、愛する人も守れない。
人は国家の一員の前に自然人だ。
今世界で何が起きているのかを自分なりに調べ分析することは人として当然だろう。
胡散臭く思う人は既に奴隷化が完了していて、そういう考え方が理解できない状態なんだと思う。
そういった意味でも、この記事はおおいに有効でありがたいですね。482018/3/3 02:21 - NO NAME913b742d2ac3社会主義国の癖に、発電設備の部品などは他から輸入すれば良いと考えていて、自前で作ろうとはしなかったってさぁwwwそれ社会主義ちゃうわ。7122018/3/1 16:54
- NO NAMEd71fc232becbマルクスレーニン主義は理論的に破たんしているが、毛思想や金思想は分派として機能している。
社会主義だから自前が当然と言うのは誤った知識。社会主義だって貿易はする。
北朝鮮が自前を積極的に進めているのは、いわば独自の社会主義理論に基づいていて過去の経験からそのような方針に至っている。
制裁が思ったほど効果をあげていないのは、自前主義だからに他ならない。
しかし、今では首都でも影響が顕著に出始めているらしい。
中露が言うように、生活に影響を及ぼすほどの制裁が良いのか?悪いのか?
世界中がまるでオンラインゲームでもやっている感覚で追い詰めているが、痛みは記憶となり語り継がれる。
制裁の論拠となっている国連決議は外務省が主導している。
北朝鮮にとって日本は目の前に刃物を突き付けた当事者に他ならない。
ただし、彼らは米に首ったけで、それにまだ気が付いていないようだ。392018/3/3 02:15 - NO NAME9e0ecd5465fa金正恩氏は核を自国の防衛のために必須と言っており、アメリカなど他国が攻めない限り使用することはない。であるならば、核を持っているからと言って難癖をつけ、あくまで「ならず者国家」扱いする必要はあるのだろうか?他国から経済制裁を受ける中、小国ながら必死で自給自足で独立国家としての体制をうち建てようとしている。その姿勢はむしろ健気に映るのだが・・・。7172018/3/2 19:11
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