2022-05-15

ウクライナ政府の「天皇裕仁写真削除」は何を示すか - アリの一言

ウクライナ政府の「天皇裕仁写真削除」は何を示すか - アリの一言

ウクライナ政府の「天皇裕仁写真削除」は何を示すか

2022年05月04日 | 日本の近現代史
    

昭和天皇 ヒトラーと同列に ツイッター写真投稿 ウクライナ政府が謝罪

 4月26日付の沖縄タイムスはこの見出しで、次の記事(共同配信)を掲載しました。

「ウクライナ政府は25日までに、ツイッターの公式アカウントに昭和天皇とナチス・ドイツの指導者ヒトラーらの顔写真を並べた動画を投降していたとして「友好的な日本の人々を怒らせる意図はなかった」と謝罪し、写真を削除した。

 動画は今月1日に投稿され、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン政権を「現代のファシズム」として非難する内容。「ファシズムとナチズムは1945年に敗北した」と指摘した画面で、ヒトラーやイタリアの独裁者ムソリーニと昭和天皇の顔写真を並べていた。

 日本国内のツイッターユーザーなどから批判が集まり、在日ウクライナ大使館のアカウントに抗議が殺到。コルスンスキー駐日大使は25日、自らのツイッターで「制作者の歴史認識不足。深くおわび申し上げます」と表明した。

 磯崎仁彦官房副長官は25日の記者会見で「不適切で極めて遺憾だ」と述べ、削除を要請していたことを明らかにした」(4月26日付沖縄タイムス)

 この記事が報じる経過・内容には黙過できないいくつもの問題があります。

 第1に、日本政府とウクライナ政府が共同した重大な歴史の改ざんだということです。

 「ファシズム」は様々に定義されていますが、一般的には市民の自由・権利を圧殺した「独裁体制」であり、ウクライナ政府のアカウントは、「1945年に敗北した」独裁体制を示したものです。天皇の絶対的権力を明記した大日本帝国憲法の下、さらに治安維持法など様々な弾圧法で補強し、思想信条・言論の自由を徹底的に封殺した戦前の日本が独裁体制であり、その頂点に天皇裕仁が君臨していたことは歴史的事実です。その帝国日本が日独防共協定(1936)、日独伊3国同盟(1940)でファシズム陣営の一つであったことも明白な事実です。

 ウクライナ政府のアカウントが当初、ヒトラー、ムソリーニと天皇裕仁の写真を並べて掲載したのは歴史的事実に沿った正当なものです。それを「不適切」として裕仁の写真だけを削除したことこそ不適切であり、歴史の改ざんと言わねばなりません。

 第2に、磯崎官房副長官は日本政府(岸田政権)が「削除を要請していた」ことを、問題発覚後の25日の会見で吐露しました。岸田政権は重大な歴史的事実に関する外交問題で、水面下で他国政府に圧力をかけていたわけで、まさに不適切です。

 第3に、「日本国内…から批判が集まり…抗議が殺到」したことです。それがどの程度で、どういう内容だったのか不明ですが(ネット右翼の組織的行為が推測されます)、現代史の最も基本的な事実を否定する言説がはびこり政治的圧力をかけていることは見過ごせません。

 第4に、ウクライナ政府は、「制作者の歴史認識不足」だとして削除・謝罪しました。これが本心だとすれば、それはウクライナ政府(ゼレンスキー政権)の歴史認識、とりわけファシズム・独裁体制に対する認識の不十分さ、誤りを示すものです。

 第5に、「制作者の歴史認識不足」というのはおそらく方便で、実際は、ロシアとの戦闘に軍事的(防弾チョッキなど)・経済的支援を受けている日本政府の申し入れには逆らえないということではないでしょうか。だとすれば、それはロシアとの戦争のためなら歴史的重大事実も改ざんしてはばからない、というウクライナ政府の国家戦略を表したことになります。

 第6に、ウクライナ政府やアメリカなどNATO(北大西洋条約機構)諸国は、ロシアに対して「国連憲章違反」だと批判していますが、「主権尊重」や「武力不行使」の国連憲章の原則が、第2次世界大戦の「対ファシズム戦」の教訓から制定されたことは言うまでもありません。天皇裕仁をファシズム陣営から削除した歴史の改ざんは、この国連憲章に明記された第2次世界大戦の教訓を踏みにじるものと言わねばなりません。

 今回の問題は、日本、ウクライナ両政府が、「国家利益」のためなら歴史の改ざんも意に介さないことを露呈したものと言えるのではないでしょうか。

No comments: