2017-09-17

オリガ・モリソヴナの反語法 by 米原 万里 (著)


オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)(日本語) Paperback Bunko – October 20, 2005
by 米原 万里 (著)
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人間として、読むべき本。
投稿者Amazon カスタマー2016年1月3日
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日本人作家でこんなスケールの作品を書いた人が、かつていただろうか?
スケールの大きさ、構成力、文章のうまさ、そして何より、登場人物の魅力的なこと!どんな「悪役」にも、彼らなりの正義がある、というところに、米原さんの人となりが出ているのだと思う。
ソ連の過酷な時代を生き抜いた人々のそうした「正しさ」に、読後、胸が熱くなるに違いない。


米原さんには、長生きしてもっともっと多くの小説を書いていただきたかった! あらためて今そう思う。
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スターリンの圧政下を生き延びた逞しき女性の大河ドラマであり、粛清された罪なき人々に捧げる鎮魂歌
投稿者ライオン丸2017年7月8日
1960年代にプラハのソビエト学校で少女時代を過ごした主人公の志摩。級友からは、ロシア風にシーマチカと呼ばれていた。


この学校には、抜群にダンスが上手いが、毎日厳しく生徒を叱責している年齢不詳のオリガ・モリソヴナと、フランス人も驚くほど古風で上品なフランス語を操るエレオノーラ・ミハイロヴナという謎めいた二人の名物教師がいた。そして、この二人をママと呼ぶアジア的容貌の美少女ジナイーダの存在。


大人になった志摩は、少女時代の謎を解くためにソ連崩壊後のモスクワに飛び、ソビエト学校時代の親友のカーチャに再会する。


著者の青春時代を回顧した「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」と同じような構成の作品かと思って読み進めたが、内容的には大変重たいものだった。


スターリンの独裁下で、謂れのない罪を被せられて強制収容所に連行された人々。夫や我が子と引き離され、有無を言わさず処刑されたり、収容所の劣悪な環境下で力尽きたり…。スターリン批判を経て政治犯の名誉回復がなされるまでの間に、数え切れないほど多くの人たちが非業の死を遂げたという事実に、改めて胸が痛んだ。


オリガ・モリソヴナがどうして反語法を用いて生徒を面罵するようになったのか、あれほど豊富な罵詈雑言の語彙を操るのは何故か。エレオノーラ・ミハイロヴナが、志摩を見る度に中国人かと尋ねていたのは何故か。分厚い作品だが、最後まで読むと、これらの謎の悲しい背景が明らかにされる。


この作品は、一人の日本人少女の青春譜であるとともに、激動のソ連・東欧を逞しく生き延びた女性たちを主人公とする大河ドラマであり、圧政下に命を落とした罪なき人々への鎮魂歌でもある。

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米原節全開
投稿者Amazonのただの客2015年8月12日
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フィクションではあるが、10本のノンフィクションが書けるくらいの経験と調査がベースになっている。
私は、同時通訳としての米原さん、エッセイストとしての米原さん、猫・犬好きの米原さんの他に、ダンサーとしての米原さんを見出してびっくりした。「嘘つきアーニャ・・・」を読んだ読者なら、「ああ、ここは本当にあったことなだなあ」と納得する。正直、エッセイから入った私には、「小説?大丈夫?」だったが、癸酉でした。米原節だし、文句なく素晴らしい。登場人物が、みんないとおしい。レオニードとの初恋は本当にあったことなのかなあ・・・。何か悔しい。

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こんなにもセンスのいい小説があったのですね
投稿者過ぎし日を懐かしむ人2016年8月2日
 久しぶりに素晴らしい小説を読みました。私は読みながら自分の好奇心を抑えることができませんでした。私も主人公の志摩と一緒になって謎解きをしている気分でした。主人公志摩は少女時代をプラハのソビエト学校で過ごしました。40代になって親友カーチャとペレストロイカ後のロシアで再会し、二人で恩師だった魅力あふれる謎めいたダンス教師オリガ・モリソヴナの過去を調べて行く話です。スターリン時代のソビエトを緻密に調べてあり、ソビエトの真実にショックを受けました。何十年ぶりかに会った親友との変わらぬ友情にも心を打たれました。二人は再会した瞬間から少女時代の気持ちに戻れました。ちょっとうらやましかったです。
 読者としてはこんなにも楽しませてくれて、読後の満足感を味あわせてくれた著者に感謝です。
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「巻を置く能わず」の文学的ミステリー
投稿者白河夜舟2017年4月28日
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著者の万里さんは下ネタ話にむしろのめり込んでいく男勝りの女性なので眠りの森の美女向きではないような気もしましたがそれはほんの一部。きちんとした感想をまとめたいと思ったのですが、大仕事になりそう。ちょっとお目にかかれない雄大な構想で幾つもの謎があるのでそれを説明するだけで老人の息は上がってしまいます。その謎のすべてが最後には一つ残さずきれいに解けてしまう手際のよい傑作だと思いました。あえて言うならばすべての謎が解けてしまうのが唯一の欠点です。なぜなら解けることのない疑問が常に残るのが人生だからです。
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歴史の中の庶民のロマンー何があっても生き抜いて
投稿者Madam K2003年6月16日
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かつてのソ連の時代,反体制の影に怯えた体制側に粛清された人々の話。と言っては余りにも安易な表現だが、歴史上の事実を踏まえて克明に過去を遡る形で物語は進んでいく。10代の多感な時代に起きた出来事と出会った人々に対する著者の暖かい目を感じる。第一次世界大戦からソ連崩壊までの間に一体、どれだけの人の命が同じ国の中で失われたのか?命を永らえる事ができたから戦後生まれのシーマチカの心に深く残ることが出来たのであり、オリガの精神も継承出来たのだと思う。それにしても、戦争や内乱など政情不安になると女の人が蒙るリスクはなんと大きいのだろうか。そして、人の心とは何と脆いものなのか。忙しくって買ったままおいておいたが読み始めたら一気呵成に読んでしまった。物語としては面白かったが、ちょっぴり悲しかった。
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