この1年、読者から寄せられたセックスレスにまつわる様々な悩みを伝えてきました。みなさんの声を通して見えてきた女と男の関係について、社会学者の上野千鶴子さんに聞きました。
■恋愛時思い出し、面倒と向き合って 女と男の関係、上野千鶴子さんに聞く
紙面で紹介された経験や悩みは、「セックスをしたい」のか、それとも「配偶者としたい」のか、問題が混在していました。
前者ならどうぞご自由に。結婚契約が「パートナー以外とはダメというお約束」だとしても、契約を破っている人はたくさんいます。合意で違反しているカップルもいます。そもそも身体の性的使用権を、たった一人の異性に生涯にわたって譲渡する契約など、不自然で不合理。守れない約束はしないものです。
後者は相手との関係性の問題。関係の縮図がセックスに表れる。強要されるのと、求められないのと、どちらが苦痛が多いと思いますか? 昔の妻の望みは一刻も早く終わってもらうこと。妻は夫との力関係で断れない。断ったら夫が不機嫌になるからガマンする。逆に妻が迫っても夫は断れる。セックスをどちらが始めるか、断る権利があるかは、男女の力関係の反映です。
■安定のため犠牲?
夫に求めたら、「変態」と言い放たれた女性がいたそうですね。その時点で夫婦関係は終わっています。優しさもいたわりもない言葉。愛されていない、つまり、尊重されていない。一緒に子どもをつくった相手なのに、それほど自分をないがしろにする男と夫婦でいたいですか?
結局、生活の安定を求めているんでしょう。父母の役割と、既婚者としての身分保障。セックスを犠牲にするのと比較して、どちらがコストパフォーマンスがよいか。
最近の職場には、「何を言ってもセクハラと思われそうで神経を使う」とこぼす男性がいます。以前の職場は空気のようにセクハラが蔓延(まんえん)していた。男が普通にふるまうとセクハラになるケースが多いなら、使いすぎるほど神経を使ったほうがまし。女性が黙っていないから、「ノー」というサインに敏感な男性が出てきた。セックスレスも同じ。その方がはるかに文明的じゃないですか。
■結婚「なめんなよ」
投稿者のセックスの定義が狭い印象も受けました。インサート(挿入)にとらわれている。スキンシップやオーラルなどセックスは多様。探求心と努力が足りない。ラクして成果は得られません。
いまのパートナーとしたいのは関係を修復したいということ。ならば恋愛時を思い出して。恋愛は徐々に身体の距離を縮める接近の技術。相手の警戒心を解き、互いに間合いを詰めなければなりません。そのプロセスをすっ飛ばし、セクシーランジェリーにいくのはカン違い。
恋愛という面倒くさいプロセスをへて、結婚したんでしょ。だいたい、他人の身体を触って反応をみるなんて面倒なもの。その面倒くささを回避して、いいセックスなんてできない。学習には「授業料」を払わなきゃ。他人の肉体を自由にできるのが結婚だと思うのなら、「なめんなよ」と言いたいです。もし相手から尊重されていない状態に甘んじているなら、それは自分の人生をないがしろにしているのです。
セックスのハードルは下がっているのに、男女関係のギャップは相変わらず。若い女はセックスで男をつなぎとめようとしたり、デートDVやストーカーにあったりしている。自尊感情が低いから、男の支配と執着を愛情と取り違える。愛されるって尊重されるってことなのに。
「基本のき」は家庭の夫婦関係。母が父からどういう扱いを受けているか、子どもがみています。夫婦が結婚生活を侮っているなら、その価値観を子どもが受け継ぎます。結婚ってこんな程度のものよ、と。
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<寄せられた切実な悩み>
既婚者の44%がセックスレスという一昨年の調査(日本家族計画協会)をきっかけに、パートナーとの関係について考えてきました。女性が求めても男性に拒まれるケース、逆に男性から強いられて苦しむケース、レスでいい関係をつくるあり方、産後に溝が広がっていくつらさ。男性だって悶々(もんもん)としているという声も取材しました。拒否される人もイヤイヤ応じる人も悩みは深く、男女の気持ちがすれ違っている切実さが浮かび上がりました。
■読者のモヤモヤ
・恋愛時代はそれなりに男女の情熱はありましたが、子どもを得てからは子どもへの愛がなんといっても強い。男女の愛というものは、子どもを得るための過程でしかなかったといっても過言ではないぐらいの感覚です。夫婦の寝室のあり方も国によって違っていて当然です。まねする必要はないと思います。幸せの感じ方は違うのです。(47歳、主婦)
・ハグとかスキンシップが大事ですよね~。記事を夫にも読み聞かせましたが、反応なしです。セックスを強要されるのはいやだと思っています。(50歳、主婦)
・パートナーがいるのに拒絶され、自分で慰める惨めさ。私は夫に拒まれ、あきらめました。「お願いだから」と無理に泣きついても、「そういうムード」はつくれない。本当はいろいろ知りたいけれど、風俗にいく勇気はありません。(51歳、主婦)
◇不倫の体験・意見を募集します
芸能人や議員の不倫が取りざたされています。みなさんは不倫についてどう思いますか。不倫の渦中にある。パートナーが不倫をしている。そんな体験や悩み、意見をお寄せ下さい。モヤモヤ~ッとした気持ちもぜひ。オトナの保健室は4月からも本音で勝負します。ご紹介の際は匿名にするなどプライバシー保護を徹底します。住所、氏名、電話番号、職業、年齢を書いてjoshigumi@asahi.comへ。
◆取材=河合真美江、中塚久美子
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