金素雲著 三韓昔がたり
2015年 03月 31日
古い昔、朝鮮には新羅、高句麗、百済の三国にわかれていた。
この時代を三国時代という。
この時代を学生時代に世界史で習ったのか、日本史で習ったのか覚えていない。
任那日本府という言葉は日本史で習ったような気がする。
それはともかく,
たまたま手にとったのが、この子供向けの「三韓昔がたり」という歴史本であった。

はしがきを紹介したい。
遠い路に旅立つものは、身支度に心をくばる。わすもののないように、先々で不自由をせぬように。
日本はいま、大東亜の先駆者としての、はるかな旅に上がろうとしている。苦しみや不便も、さだめし多いことであろう。それでも行き着いた日の楽しさを思えば、苦しみなど、もののかずではない。
今日の日本の子供ほど、おおくの艱難を背負はされた者はない。
今日の日本の子供ほど幸福に恵まれた者もいない。
わたしくしは、こころからの言葉で、きみたちにことづける。
しつかりと身支度をととのへて、この険しい旅を歩みにぬいてくれたまへ。そのためには、きみたちに知ってもらはねばならぬことが沢山ある。
『三韓むかしがたり』と名付けたこの本の中には、古い昔からの朝鮮にあった、さまざまな語りぐさが集められている。中略
「こんなにも違う」ということは、「こんなにも同じい」ということだ。縦にも横にも、わたしたちの心は、もつともつと、広がらねばならない。ひとりでも多くの人を理解しよう。古いことを通して、一つでも多く、新しい意味を学び取ろう。以下略
このはしがきに心打たれた。
子供たちにしっかりとしたメッセージを贈っている。
戦時下であるがゆえに、この国に帰属しなければ出版は不可能であった。
けれども、金素雲が目を向けていたのは子供たちは自分の母国の子供たちに違いない。
この本が出版されたのは戦時下の昭和17年、韓国は日本の統治下にあった。
金素雲氏は12歳のころ、釜山から伯母をたよって日本に渡り、苦学生として学び続けた。
21歳の時北原白秋に認められたのが、自ら採集してまとめた「朝鮮民謡集」である。
おいたちは自著の「天の涯に生くるとも」から読み取れる。

しかし金素雲は一言では語れない人物である。
出版のためには強引に金を引き出さねばならない。
並みの人生では、物書きとして生きていくことはできなかったはずだ。
金素雲は日本人女性との間の子供とは2歳で別れている。
北原綴(ペンネーム)というこの息子の葛藤は「われらが他者なる韓国」四方田犬彦著の中で紹介されている。

父に捨てられ、母の愛情を受けることが出来なかった北原綴は屈折した人生を送ることになる。
童話作家でもあった北原は後にベルギー宝石事件や偽札偽造、そして宝石商を殺す事件を起こし、無期懲役の身となった。
その時被害者に謝って歩いたのは再婚した夫とともに某大手石鹸会社の創業者であった実の母親であるという。
「恩讐の海峡 佐木隆三著より」

母国の子供たちに、格調の高いメッセージを贈りながら、自分の子供はまともな人生がかなわなかった。
朝鮮と日本の間で揺れ動いた人々の心に分け入ることは、私たちにはできるはずはない。
『三韓昔がたり』から始まった金素雲をめぐる旅は
手元にあるこの三冊の作品に到着した。

この三冊は金素雲の人生の結晶であるに違いない。
そこから受ける心だけで十分である。
私たち読者はこの結晶の中にそれ以上複雑な問題を持ち込む必要はないのだ。
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Commented by きとら at 2009-03-14 23:56 x
はるかな昔、岩波文庫の金素雲の作品は手に取ったことがあります。日本人向けだな、とそのままにしておきました。私は在日二世で、あの頃は北朝鮮寄りでした。金達寿が活躍していた頃です。
今はナショナリズム的なものからは離れるようにしています。しかし、ライフワークの古代史は、書紀や万葉を、古代新羅語、百済語で読み直すことがメインです。これはナショナリズムではありません。
韓国映画の「風の丘を超えて」(西便制)はご覧になりましたか。「おくりびと」は観ていませんが、「風の丘を超えて」には及ばないでしょう。これもナショナリズムを振り回しているわけではありません。(笑)
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Commented by saheizi-inokori at 2009-03-15 09:48
きとらさん、私は本書以外に金素雲の書いたものを読んでいません。
書紀や万葉の古代新羅語や百済語のことなど考えたこともなかったなあ。
その映画も見てないです。
ほんとにほんとにな~んにも知らないままに生きてきたのです。
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Commented by kaorise at 2009-03-15 15:53
平凡な妻ってどんな妻なんだろうか、、
家事をきちんとして子供を可愛がり浮気しないとか?なのかなあ〜
だったら私も平凡だ☆やった☆へんな自信ついてきたよ金先生!
でもねえ、私どうやっても夫より亀の方が好きだと思うの。
子供がいたらこの立派な亀を敬え、とカルト教育しそうなの。
浮気する女の方がマシだ、、なんて私を捨てないで〜〜!
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Commented by saheizi-inokori at 2009-03-15 18:05
kaoriseさん、金さんも結局平凡な妻とはうまく行かないだろうっていてるんだけれど、平凡な妻の方が金さんには我慢できないかもしれませんよ。
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