
幕末的思考
by 野口 良平 (Author) Format: Tankobon Hardcover
4.2 4.2 out of 5 stars (9)
幕末から明治への列島の歩みは、暗から明への昇華ではない。
それは、列強による開国への圧力を前に、尊皇攘夷から尊皇開国への転向と
その隠蔽、新政府の正統性の急造を伴いながら、慌しい近代国家建設を余儀
なくされる過程であった。しかしそこでは、植民地化への危機感と理不尽への
抵抗を糧に、普遍的価値のうえに新社会を構想する思考が、徒手空拳で模索
されてもいた。中国や西欧からの輸入ではない、この国に地生えの思考が育ま
れる契機は、しかし、生みの親でもある対外的「危機感」に圧迫され、皇国主義
イデオロギーの席巻という試練のなかで影を潜めていった。帰結の一つは、現在
も続く第二極の不在である。
本書は、「明治維新」という事後的な枠を通しては見えてこないその思考――幕末的
思考――の系譜を、吉田松陰、中岡慎太郎、坂本龍馬、福沢諭吉、中江兆民、北村
透谷、夏目漱石、朝河貫一、中里介山らに辿り、その画期性を歴史の行間にあぶり
だした精神史的試論である。松陰の「やむにやまれぬ大和魂」の射程、中岡と坂本の
連携を支えた地べたの普遍感覚、私情こそ公的なものの源泉であると見た福沢や、
後発近代社会こそが民権論を実践できるという兆民の価値転倒の試み、『こゝろ』で
「先生」の殉死に託した漱石の抵抗、介山『大菩薩峠』が描く明治がこない世界――。
彼らの未成の思考を紡ぎ直すこと。その今日的意味の切実さを、幕末の人びとの経験は我々に教えている。
[目次]
はじめに
第一部 外圧
第一章 背景史――最初のミッシングリンク [アヘン戦争/黒船来航と佐久間象山/渡辺崋山と高野長英]
第二章 状況を担う人 [吉田松陰/二つの問答/統整的理念と構成的理念]
第三章 変成する世界像 [攘夷の再定義(横井小楠)/開国の再定義(遣米使節)/攘夷決行]
第四章 変革の主人公とは誰か [「内在」と「関係」の往還/坂本龍馬と中岡慎太郎/草莽の丸テーブル]
第五章 残された亀裂 [転向とその証言者たち/神戸事件・堺事件/相楽総三と赤報隊/小栗忠順と近藤勇]
第二部 内戦
第一章 内戦の経験――第二のミッシングリンク [五か条の誓文/世直し・御一新・維新/戊辰戦争の経験]
第二章 勝者の思考と敗者の思考 [出発の苦しみ/勝者と顕密二元論/官賊範疇と敗者]
第三章 一八七三年のアポリア [岩倉ミッション/西郷隆盛と大久保利通/政府分裂と明六社]
第四章 未成の第二極 [中江篤介の洞察と試行/西南戦争と立法者の消滅/「丁丑公論」]
第三部 公私
第一章 再び見出された感覚――第三のミッシングリンク [市民宗教/『民約訳解』から『三酔人経綸問答』へ/「瘠我慢の説」]
第二章 滅びる者と生き残る者 [離陸する顕教密教システム/北村透谷/夏目漱石]
第三章 敗者における大義と理念 [分岐点としての日露戦争/敗者たちの歴史像/山川健次郎/朝河貫一の場合]
エピローグ――明治がこない世界のほうへ
注
あとがき
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From Japan
goodmooning🌙
5.0 out of 5 stars サムライが居ないこの世で第3の開国へ!?
Reviewed in Japan on April 27, 2026
Format: PaperbackVerified Purchase
今でも幕末の尾を引き摺って、インバウンド&移民流入と排外主義&愛国心の拮抗が現代でも
重要なイシューとなっておりますが、取るべき類型のスタンスはあまり何ら変わりないことが
良く分かる一冊となっております。スバラシイデス。顕密システムで水面下で秘密裏に
政策が遂行されて中央集権が弱体化するように見えた昨今でしたが、バックフラッシュの
揺れ戻しが生じており最中であり、カジノ路線で行くのか独裁体制で行くのか自由民主国で
ヨーロッパ的に苦悩するのか庶民である自分は受け身で何の術もありませんが…外湾の日本列島と
内湾の朝鮮半島の違い/環境圧の違いや官賊軍の類別による東北の後発性やポストコロニアル的な
状況や低出生率の有意差などに繋がっているのかなぁ~とも思った。長射程によるユニークな視点
で幕末の歴史の概略を知れて良かったです。吉田松陰とかその身分で国難で憂国の徒ぶるなとか
幽閉されたりしながらも現在まで思想が残響していたりして身に沁みて共感ばかりです。今も内優外患
の時代で内柔外剛とはいかなくてトホホです…
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針生森
5.0 out of 5 stars 現在の問題の遠因は幕末にある。
Reviewed in Japan on December 11, 2017
Format: Paperback
私は、生まれてからずっと米国の影の中にいて、そのことがフワフワした足場のなさと感じられてきました。この本を読んで、その足場のなさの遠因が幕末にあるとわかりました。
開国を強要されることの理不尽さ、そこを根として抵抗した思想(攘夷)があった。が、幕末から明治にかけてその思想が隠ぺいされたという。本書はその抵抗の思想に光をあてています。抵抗はどのように可能か、それは「私情」(福澤諭吉)だという。それは加藤典洋さんの「私利私欲」とも、鶴見俊輔さんの「民主主義の根としての私」ともつながっているのではないでしょうか。
以上が私の感想ですが、本書はあらゆる文献にあたり、各地を歩き、幕末の精神史を克明に描き出しています。
一読の価値、また資料としても重要な価値があると思います。
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